最後のBMCワークスカー、「ステロイド摂取したMGB」の魅力とは?

Andrew Morgan


“ステロイド摂取したMGB”の魅力


MGC GTSはジャガーEタイプのミニチュア版に思えなくもない。ストレートシックス・エンジンはジャガーほどのパワーこそないが、ツインエグゾーストが轟かせる歯切れの良いサウンドが、ウェバーならではの吸気音と相まって心地良い。1960年代を彷彿とさせる音質で、“ステロイド摂取したMGB”という魅力の虜になってしまう人がいるのも無理はない。トルクは充分あるのでギアを落とすことなく、中速域でもパワフルな走りを満喫できる。もちろん、コーナリング中にギアをホールドしてやれば、タコメーカーのレッドゾーンまでエンジンはキッチリと回せる。

MGBでレースするのと同様、MGC GTSには“フレンドリー”さがあり、ロングスティントが要求されるタルガや、マラソン・デ・ラ・ルートなどにはうってつけのパートナーとなっただろう。気難しいマシンでのロングスティングは疲労の蓄積も早く、ギアチェンジやコーナーでのミスが思いのほか起こりやすいものだ。

ギアチェンジにおけるシフトストロークは、短くて滑らかの一言に尽きる。ステアリングは路面との“繋がり”と操舵に要する“重さ”が絶妙にブレンドしている。ノーズをエイペックスに向け、コーナリング中にステアリング修正をしながら出口へ向かう。MGCロードカーではよく指摘された、アンダーステアにほとんど見舞われることがなかった。ブライトンではスロットル・コントロールでコーナリングすることが推奨されており、メイベルは水を得た魚のように駆け抜ける。



MGC GTSはずっと乗っていたくなるようなマシンで、挙動が分かりやすくドライバーは自信を持てるとともに人馬一体化しやすい。メイベルはもっと速く、もっとパワフルなマシンと戦ってきたが、多くのドライバーはメイベルで得られるような人馬一体感には乏しかったのではないだろうか。ライバルに比べれば“控えめ”なパワーではあったものの、メイベルではクルマが持つポテンシャルを最大限引き出す、という満足感がある。私は今回の試乗を心底楽しませてもらっただけでなく、メイベルを入手したリック・ホールのことを羨ましく思う。

メイベルはフルレストアが施されてからほとんど乗られていないため、まるで新車のような輝きを放っていた。もっと言えばあまりに綺麗過ぎて、“走り”の証である飛び石傷があってもいいくらいだ。今後、リック・ホールは、ようやくイギリスに戻ってきたメイベルでヒストリックカー・イベントに参戦するつもりだという。最近は投機対象としてガレージに仕舞い込まれるレースマシンが多いので、このような歴史的価値があるマシンが再びイギリスのサーキットや街中を走ると思うと、実に感慨深い。

1970年のBMCコンペティション部門の閉鎖は、関係者全員に悲しみをもたらし残念な終わり方であった。チームの衰退ともさることながら、MGCの後継モデルが開発されなかったことも、MGC GTS(プロジェクトEX241)に影響を及ぼしたことが推測できる。MGC GTSはベース車両の性能不足と財政難というハードルがあったにもかかわらず、セブリングやタルガ・フローリオ、マラソン・デ・ラ・ルートなどで善戦した。もっとコストをかけて開発するだけの価値があったともいえよう。

モータースポーツには“もしも”という物語が数多くある。そして、MGCによるレース活動は“もっと戦えたはずだ”と思わせてくれる。アメリカのインテリア・デザイナー、ドロシー・ドレイパーが残した格言「見た目が良ければ、それでいい」に従うならば、ハンサムなMGC GTSはカリスマ的スポーツマシンとして魅了されることだろう。血中ガソリン濃度が高めな人は我慢できまい。



BMCは様々なモータースポーツ・シーンで活躍したが、コンペティション部門が最後に手掛けたマシンとなったMGC GTSは見逃され、もっと評価されるべき存在だった。メイベルがイギリスに戻り、今後ヒストリックカー・レースでの雄姿を目の当たりにすれば、MGC GTSの評価は改めて高まるに違いない。


編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA (carkingdom)
Words:Richard Meaden Photography:Andrew Morgan

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国)

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事