ポルシェ911カレラRS2.7、ダックテールの秘密|最初は「ボディ後部に付いた奇妙な物」と笑われた!?

Porsche



ヒントは身近なところにあった


ポルシェもエアロダイナミクスについては色々と実験を繰り返していたが、ブロードベックは最もありえなさそうな場所にひとつのアイディアを思いついた。

「私の最初の車はフィアット850クーペで、その小さなリアエンジン車が大のお気に入りだった。2年ぐらい後、私は 5馬力だけパワーアップした最新バージョン(850スポルトクーペ)に買い替えたのだが、前の車よりもずっと速いことに驚いた。エンジニアとして考えたのは、5馬力アップしたことだけでは説明できないということだ。最初の 850はリアエンドがスムーズな形状で、いっぽう新型はエンジンリッドが湾曲しており、後端を切り落としたような形になっていた。ダルムシュタットの風洞で働いていた友人に頼んで両方をテストしてもらった。空力的に効果があるかどうかを確認したかったのだが、彼らの答えはノーだった。ただのスタイリングだよ、と言う。本当のところは、当時は誰も分からなかっただけ。それでもそのことはずっと頭の中にあった」

ブロードベックは 911のリアボディを見てその時のことを思いついた。得られた結果は非常に有望だった。

「もしかすると、911のエンジンリッドに何かしらのことができるかもしれない。2.4Sではルーフの後ろで気流の渦が生まれることが分かっていた。ある種の切り落としたエッジで空気の流れをスムーズにできるのではないか。そこで様々な形状のパネルを溶接して風洞で試すことにした。2日半それだけに費やして、ある種のスポイラーに行き着いた。決してカッコよくはなかったが、似たような物を市販モデルで試したことはなかったんだ」



「ボディ後部のリフトが劇的に改善された。そのデータを携えてヴァイザッハに戻ると、ミスター・ボットも同意してくれた。そこでテストドライバーのギュンター・ステッケーニッヒに、ヴァイザッハのテストコースでスポイラー付きとそうでない車を試してもらったんだ」期待に違わず、スポイラー付きの車の方が明らかに速かった。ダックテールというあだ名をつけられたのはそのすぐ後のことである。

驚くべきことに、こうやって生まれた911のテールスポイラーは、当初ポルシェ社内ではほとんど注目されなかったという。ブロードベックが有効性を証明した後でも、彼の前にはまだ高い壁が立ちはだかっていたのだ。

「スタイリングスタジオで若手エンジニアとしてスピーチしなければならなかった。長さはこれぐらいで、高さはこれぐらい、要するに彼らとしてはスタイリッシュにする必要があった」その次には公道走行に適合しているとみとめさせる問題があった。

少量生産ゆえに手作業での工程も多かった。

「ずいぶんと議論を重ねた。彼らは二輪車に対して危険だと主張した。最終的にポルシェと当局側は合意に至ったが、我々はエッジをわずかに低め、台数は500台だけと約束させられることになった。後で実際に車がどれだけ売れたかを聞いた人は誰もいなかったけれどね」

編集翻訳:高平高輝

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