ポルシェ911カレラRS2.7、ダックテールの秘密|最初は「ボディ後部に付いた奇妙な物」と笑われた!?

Porsche



「ツーリング」と「ライトウェイト」


再び現在の路上に戻ろう。家々がまばらになり、道が空いてきた、それでもティルマンのスポイラーを活かすほどの速度にはまだ届かない。オープンロードではRS2.7の増強されたパワートレーンがその真価を発揮する。現代の眼から見るとスタンダードの 911に見えるかもしれないが、RSは前後で異なるサイズのホイール/タイヤを与えられているのが特徴だ。フロント185/70VR15、リアは205/60VR15という標準タイヤセットが格段に強力なパワーとトルクを伝える。さらにリアのホイールアーチは広がったトレッドに合わせて張り出しており、それが迫力あるプロポーションを形作っている。

1973年ポルシェ911カレラRS2.7ツーリング
エンジン:2687cc、水平対向6気筒、各バンクOHC、ボッシュ燃料噴射、リアマウント
最高出力:210bhp/6300rpm(DINカタログ値)
最大トルク:26kgm/5100rpm(DINカタログ値)
トランスミッション:5段MT、後輪駆動
ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前):マクファーソンストラット、トーションバー、スタビライザー
サスペンション(後):トレーリングアーム、トーションバー、テレスコピックダンパー、スタビライザー
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
車重:1075kg 最高速:240km/h


2.7リッターフラットシックスは低回転でも不平を漏らすようなことはないが、本当に目を覚ますのは4000rpmを超えてからだ。レッドラインは7000rpmを超えたところに設けられているが、パワーピークは 6300rpmで、最大トルクは5000rpm余りで生み出される。とはいえもっとずっと上まで回さないのはむしろ不公正と感じるほどだ。回せば回すほどスロットルレスポンスは鋭くなり、ブリッピングとともにシフトダウンするのは歓びそのものである。そのシャープなレスポンスはハンドリングを突き詰めようとする際にも大いに役立てくれる。基本的にフロントが軽い 911はコーナリングの際に注意深さを必要とするが、その場合にも非常に鋭いスロットルレスポンスを利用して姿勢をコントロールすることができる。レザー巻きの細いステアリングリムは接地状態を漏れなく伝えてくれるから、走っているうちに信頼感が積み上がって行く。



もちろん、さらに焦点を絞り込んだ、もっと貴重なもう一台のRSを忘れるわけにはいかない。渡されたのは非常にめずらしいM471ライトウェイトのキーである。昨今ではライトウェイトバージョンは特にめずしいものではないが、この RSの軽量バージョンはもともとこの車の狙いが何かを余さず伝えてくれる。その軽量化手法はかなり極端だ。公称値はこの車のようにオプションのスポーツシートを備えた状態で960kg、これはツーリングよりも115kg軽量だ。最近のポルシェは軽量化のための様々なパッケージに追加料金を要求するが、1973年当時、ライトウェイト仕様のほうが3万 4700DM(およそ6000ポンド)で、3万 6500DMのツーリングよりも安かった。トータルで1580台生産されたカレラRS2.7のうち、ロードゴーイングのライトウェイトはわずか 200台、ツーリングは1308台で、残りはRSHと呼ばれるホモロゲーションカー17台、そしてコンペティション仕様のRSRが55台である。



寄り添うように並んだ2台の外観には大きな違いは見当たらないが、近寄って見ると、いくつかの差が見て取れる。主な点はサイドシルなどからクロームトリムが省かれていること。ドアを開けると見間違いようがない。その前にドアが本物のレーシングカーのように明らかに軽い。というのも、フェンダーやルーフ、ドアパネルなどは薄い鋼板で作られており、さらに薄い軽量ガラスが用いられている。ツーリングの快適なシートの代わりにシンプルなバケットシートが据えられているが、身体を滑り込ませると、背中のあたりが削ぎ取られている感覚に驚いた。メーターナセルの時計がある場所は大きな丸い蓋でふさがれ、サンバイザーもドライバー席だけに与えられた贅沢品、さらにラジオどころかグローブボックスのリッドさえ不必要として省略されている。ドアハンドルも簡素な布製の紐に代えられている。なんとかカーペットは残されているものの、ツーリングには備わっていた吸音材などはすっかり取り去られている。

1973年ポルシェ911カレラ RS2.7ライトウェイト
エンジン:2687cc水平対向 6気筒、各バンクOHC、ボッシュ燃料噴射、リアマウント
最高出力:210bhp/ 6300rpm
最大トルク:26kgm/ 5100rpm/ 5100rpm
トランスミッション:5段 MT、後輪駆動
ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前):マクファーソンストラット、トーションバー、スタビライザー
サスペンション(後):トレーリングアーム、トーションバー、テレスコピックダンパー、スタビライザー
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
車重:960kg 最高速:244km/h


当然ながらロードノイズがさらに大きいことに気づいたが、それよりも背後から聞こえる音の方が目立った。メカニズム面では2台の間に違いはないのだが、エンジンの機械音がより耳に付く。さらにツーリングではかすかに伝わって来た排気管からのポン、バンという破裂音はライトウェイトではいっそう激しい。



車重は大きく異なるにもかかわらず、公道を走る限りでは顕著な違いは感じられなかった。『Auto Motor und Sport』誌の当時のテストを見返せば、ライトウェイトの0-62mph加速は5.8秒、ツーリングは6.3秒という。ということはリミットまでフルに回せばパフォーマンスの違いは明らかだと思われる。サーキットでは車重の違いは歴然としているはずだ。ただし一般道では、乗り心地の違いを感じる程度だ。サスペンションのセッティングも両者で違いはないが、軽量化とスパルタンなシートのせいで路面からの入力はダイレクトに伝わってくる。速いコーナーが連続する所ではターンインがさらにシャープになり、フィードバックもより鮮明になっていることが分かる。とはいえ、もちろんこれは直接乗り比べた時にしか気づかないような種類の違いである。ブレーキングでさえ、2台の違いを指摘するには限界まで真剣にドライブする必要がある。



それにしても、何という一日だろう。本拠地への帰途に私はもう一度ツーリングに乗った。渋滞の中で考えたのは、このような特別な、しかも限定生産の2台を一度に乗るのはまさに夢のような経験だということだ。コレクターズアイテムという点からいえば、希少でスパルタンなライトウェイトがもちろんツーリングに優るだろう。オークションでは100万ポンドかそれ以上の値が付くライトウェイトに対して、標準仕様のRSは50万ポンドぐらいという。だが、そのような“価値”の話を脇に置くと、自分のガレージに入れておきたいのはツーリングのほうである。



発表時のポルシェのセールス・パンフレットには、RSは毎日の足から週末のレースまで、まったく問題なくあらゆることに使えると謳ってある。実際、本当に驚くべきことに、丸一日猛暑の中を思い切り走った後も、この2台は汗ひとつかいていないように見えた。RSは素晴らしいドライバーズカーであるだけでなく、一族の他の車と同じぐらい実用的であることを証明している。RSはまたサーキットでも実力を発揮した。あの恐るべき917が少しずつレースの世界から追いやられるにつれて、ポルシェは911に一層力を注ぎ込んだ。RS2.7はRSR2.8に直接つながり、それ以後 911の本格的レーシングバージョンはずっと世界中のサーキットを席巻し続けている。ル・マンでは今なお他のどんな車よりも多数派である。

実はRSは、開発の最終段階で販売部門からの横やりでほとんど頓挫しそうになったという。ブロードベックは当時を振り返って笑う。「RSのホモロゲーションを得るためには最低500台を売る必要があると知っていた。しかしセールスチームにお披露目した時は思わしくなかった。『どのぐらい売れると考えるか』と問われたセールスのボスは“多くて10台だな”と答えたんだ。幸運なことに、彼はまったく間違っていた!」


編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA
Words:Matthew Hayward Photography:Porsche

編集翻訳:高平高輝

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