氷上をスポーツカーが疾走!非日常感あふれるコンクールデレガンス in スイス

Shinichi EKKO

スイス アルプスを背景に白銀の氷上をスポーツカーが疾走する…。考えてみただけで素晴らしいではないか。そう、こんな“非日常的な”コンクールデレガンス、I.C.E(International Concours of Elegance)が、ウィンター・リゾートのメッカであるサンモリッツ湖上で開催された。

イベントはコロナ禍により直前のキャンセルなど、運営側は大きなダメージを負ったが、チェアーマンのマルコ・マカウスはそれにめげることはなかった。彼はミッレミリアやコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステなど、クラシックカーにおけるエレガンスをひたすら追求してきた男。何をおいてもこの氷上コンクールデレガンスを実施するという情熱が全てを可能としたのだ。



「このイベントはエレガントの極限です。パイロット・イベントにお呼びした敬愛するジョルジェット・ジウジアーロがこの湖上を前にこう言ったのです。『こんな純粋に車の美を愛でることのできる場所があるでしょうか?余計な建物も電線も何もない。氷しぶきをあげて走るスポーツカー達。これほど車を魅力的に見せる場を私は他に考えつかない』と」とマルコは回想する。



その素晴らしいコンセプトは、ジョルジェットの言葉を借りるまでもなく、スポーツカーのフィールドに居る皆も即座に理解した。メインスポンサーにマセラティ、リシャール・ミルが手を挙げ、フェラーリ、ランボルギーニ、パガーニといったイタリアン・エキゾチック達やメルセデス・ベンツもこのイベントにこぞって賛同したのだった。



イベントはまさにサンモリッツ湖の氷の上で開催される。一年のうちで3か月しか、このようなシチュエーションは可能とならない。暖冬なのに大丈夫なのか?と思う方もいるかもしれないが、その氷の厚さは50cmを超える。穴が開くことなどありえないのだ。ここでは例年、積もった雪を活用して馬術競技向けにオーバルコースが設営されるのが常で、今回のイベントではここをクラシックカーが疾走することになる。

私はこのサンモリッツ湖上が激寒と脅されて重装備で臨んだのだが、暖冬のおかげで拍子抜けするほどの快適な週末を過ごすことが出来た。土曜日はオープニングと共に、地元客やこのイベント目当てのエントラントが押し寄せた。子供達や愛犬を含む家族連れ、お年寄りご夫婦などさすが、ヨーロッパ自動車文化の幅広さを感じさせられたのだ。

展示は「オープンホイール」、「湖上のバルケッタ」、「ル・マン100」、「コンセプトカー&ワンオフカー」、「クイーンズ・オン・ホイール」5つのカテゴリーからなり、計48台の素晴らしいクラシックが湖上にディスプレイされた。



マセラティMC20のフォリセリエモデルがVIPゾーンに飾られた他、グレカーレ、そしてニューグラントゥーリズモのトロフェオとフォルゴーレという最新モデルのフルラインナップが登場。加えて、美しい3500GTも並んだ。



ランボルギーニ・ポロストリコはミウラP400のモディファイモデルでありながらも、オフィシャルに認証された通称”ミッレキオディ”のアピールに余念なく、“ミウラ ファン”の熱い視線を浴びていた。



パガーニもモデナ近郊にファクトリーを構えて以来、記念すべき25周年を迎え、ゾンダC12の第一号モデルと世界限定5台のウアイラ・コーダルンガを運びこむという力の入れようだ。



スイスのリゾート地であり、多くの富裕顧客が訪れるというマーケティング的に大いに価値があることに加えて、そして冒頭のジョルジェットの言葉にあるように素晴らしい車のフォトセッションを行うことが出来るというのは、参加ブランドにとっても大きなメリットだ。

参加車両はもちろんコンクールデレガンスの”掟”として氷上オーバルサーキットを果敢に攻めて、ギャラリー達を湧かせなければならない。審査員の間をそろそろと走るというフツウのコンクールとは違うのだ!だから、各車はスパイクタイヤやチェーン、あるものは時代に合わせた頑丈なロープをタイヤに巻き付ける。これだけ見ていても楽しいではないか。





ペースカーとして、マセラティグラントゥーリズモ・フォルゴーレ(BEV)が秀悦なトルクベクタリングによりするすると氷上を駆け抜けていく中、巨体のベントレーやはたまたテスタロッサが豪快なカウンターを当てながら氷上を疾走していく。そんな中、カクテルを飲みながらギャラリー達は眺める。なんともエキサイティングかつ優雅な光景だ。



さて、コンクールデレガンスの結果をお知らせしよう。

「オープンホイール」1958 Maserati 420M/58 “Eldorado”


「湖上のバルケッタ」 1955 Ferrari 500 Mondial Series II


「ル・マン100」 1958 Ferrari 250 Testarossa “Lucybelle”


「コンセプトカー&ワンオフカー」 1970 Lancia Stratos HF Zero


「クイーンズ・オン・ホイール」1958 Bentley S1 Continental Drophead Coupé


どれも珠玉のモデルであるが、私の親友が所有する車であり、最も身近な一台としてマセラティについて少し触れることをお許し頂きたい。それはマセラティ420M/58エルドラド。モデナのウンベルト・パニーニ・ミュージアム(通称マセラティ・ミュージアム)の主とでもいえる一台だ。一見、シングルシーターで250Fの系譜かと思われるかもしれないが、これは全く異なった出生の一台だ。マセラティがワークスチームを解散後に作ったワンオフモデルでスターリング・モスがモンツァを走らせた一台だ。このエルドラド、そしてミュージアムのオーナーでもあるマテオ・パニーニが口上を語ってくれた。

「モンツァ500では大事故を起こすし、インディ500でもモノにならなかった一台ですが、マセラティにレースに賭ける夢が詰まった一台なのです。この車はアイスクリーム・メーカー”エルドラド・スッド”のスポンサーにより誕生しました。メーカーのロゴをレースカーのボディに描くということでは世界の先駆です。とてもおいしい“白い”アイスクリームの為に走った一台だから。このサンモリッツの氷上にこれほどマッチしたモデルはないと思うんですよ」



さて、親愛なるエルドラド君がクラスウィナーとなって何よりであったが、ベスト・イン・ショーに選ばれた一台とはマルチェッロ・ガンディーニの傑作ランチア・ストラトス・HFゼロであった。こちらもカーデザインの常識を変えたアイコニックな一台だ。このユニークな氷上コンクールデレガンスのトップを飾るにふさわしい一台であることも間違いない。


取材協力:I.C.E (https://theicestmoritz.ch/) Marco Macaus MASERATI SpA
文・写真:越湖信一 Words and Photography: Shinichi EKKO

越湖信一

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