「クーペにもコンバーチブルにもなる車」BMW635CSi『オブザーバー』開発秘話

GF Williams


頓挫した生産化計画


BMW GBとのやり取りを見ると、最高級モデルとして50台製造する案が記されている。また、熱心なディーラーとMGAがやり取りした書簡も大量に残っている。そのうちに、12台をコンバートする計画に変わり、盛り上がりはたちまち萎んでいった。結局、製造されたのはこのプロトタイプ1台のみである。

プロジェクトについて詳細に記したシャシープレート。「高速で走行中でも、フィクスドヘッドからカブリオレに変わる手法を成功裏にデモンストレーションした」とある。

その前に、乗り越えなければならない大きなハードルが残っていた。格納ルーフがきちんと作動しなかったのである。少なくとも、謳い文句のような形で格納することはできなかった。あくまでも“プロトタイプ”だったのである。結局、ある主要下請け業者とMGAの不和が一触即発の状態になったことで、課題は解決されずに終わった。ところが、プロジェクトはここでも終わらなかった。新たな提案は、6シリーズの改造箇所を減らし、ルーフの大部分をガラスにして、“オブザーバー”の名前で(外がしっかり“観察/オブザーブ”できるから)生産するというものだった。

だが、この計画は無に帰した。MGAがデザインしたフロントスポイラーやサイドスカートなどのアクセサリーをBMWディーラーで販売することも提案されたが、同じ末路をたどった。あらゆる構想が静かに消えていった一方で、このBMWが魔法のような効果を発揮したのもまた事実である。

ジャガーやヴォクスホール、ランドローバーの関心を引くことができたのだ。MGAは、1990年代初頭までに見違えるような発展を遂げ、数々のコンセプトカーを生み出しただけでなく、量産モデルのデザインも手がけた。たとえばMGF(ローバー社内で少し手直しされた)や、フォード・エスコートRSコスワースもそうだ。ピーター・ホーブリーやスティーヴ・ハーパーといったスターデザイナーも輩出した。しかし、1997年にはすべてが幕を閉じた。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) 

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