ドライビング・エクスペリエンスに夢中になる!KAMM 912Cという「完璧な912」

Octane UK

4気筒のポルシェ912は、まともな6気筒ポルシェ911を買えない人のための“貧乏仕様”?決してそんなことはない。初期型911の価格が高騰すればするほど、より安価なバリエーションに関心が移っていくのは当たり前かもしれないが、それを抜きにしても、近年は912に対して一定の評価があり、911と比較してもそのドライビング・ダイナミクスが好意的に再評価されている。そのため、現在ではレストアが施された912は、価格面でも911をはるかに凌ぐものとなっている。

今回紹介するKAMM 912Cを手がけたのは、ハンガリーがまだ共産主義支配下にあった頃にブダペストでスペシャルな車の製作に加わったミキ・カズメールだ。彼は休日をスピードショップで過ごしているうちに空冷に魅了される。最初の愛車はVWだったが、彼の映画製作会社が軌道に乗るとアメリカで最初の911を手に入れるまでになった。しかし、どんな911を乗り継いでも、彼はショートホイールベースの912と、その控えめなデザインだからこそ成しえるバランスの良さを超えるものはないと思っていた。

彼は自分自身のために完璧な912を作ることを決意し、サプライヤーとのさまざまなトラブルを経ながらも、912を作り上げ、そしてそれを同じように912に魅力を感じる人々に提供することにした。価格は36万ユーロ(ドナー車込み)だ。年に4台の完全オーダーメイドで製造する計画で、すでに3台は購入者が決まっており、4台目も売れそうだという。

カズメールは、自分の車を2~3カ月間英国に送り、広報担当者にあちこち走らせるとともにできるだけ多くのジャーナリストに試乗してもらうというPR方法をとっている。私がその広報担当者に会ったとき、なんと彼はすでに数千キロを走破していた。彼はロンドン南西部にある私の家を訪れ、街を出る道中で車の説明をすると、私に運転席を譲った。面倒な手続きや承認要求は一切なしで、車への評価に関しても干渉するようなことはなかった。

車が近づいてくると、遠くからそのエンジンサウンドが聞こえてきて、姿を現すと思わずその魅力的なスタイルにうっとりする。ウィングのカーボンファイバー製エポレットの織目に関しては、正直あまり好みではないのだが、超強力で超軽量な素材をふんだんに使っていることを他にどうアピールするのかと聞かれれば納得するしかない。ルーフを除けば、KAMM 912Cはほぼすべてカーボンファイバー製で、重量は約970kgから750kgまで減量されている。次のモデルでは、ルーフもカーボンファイバーになり、700kg以下にまで軽量化される予定だ。

エアコンの存在を除けば、軽量化へのこだわりはこの車のあらゆる面に反映されており、特にインテリアでは、バッテリーを覆う細長いファイバーシート(助手席の足元に移設)や、バルクヘッドの改造が必要だった美しいティルトン製ペダルボックスなど、そのほとんどにはっきりと表れている。

そしてその軽さは、最先端の電子制御インジェクションとカスタムエグゾーストを装備し、1.6リッターから2.0リッターにボアアップ、190bhpにパワーアップされたエンジンをより活かしてくれる。通常のポルシェ912は89馬力、970kgで1トンあたり91馬力だが、それに対しKAMM912Cは190馬力、750kgで1トンあたり253馬力。凄すぎる…。



カーボンファイバーで覆われたバケットシートに滑り込み、フル装備のレーシングハーネスを装着してエンジンをかけると、車内は素晴らしいサウンドに包まれる。かなりの音量ではあるが、とはいえ会話ができないほどではない。

車に乗り込むと、シフトノブの位置がノーマルの912とは異なることにすぐに気づくだろう。カズメールはシフトをドッグレッグ式5速MTに変更し、レバーはカーボンファイバー製に変更した。古い車に慣れている人はスムーズに操作できるだろうが、使いこなすのに苦労する人もいるだろう。



ポルシェのレーシングクラッチは軽く、ペダルはオフセットされているがドライバーのために角度がつけられている(あるいはシートがペダルのために角度がつけられている)。さらにZFのLSDとドリフト用の油圧式ハンドブレーキも装備できるそうだ。これらの最も褒めるべき点は、軽くて俊敏な車と軽くてパワフルなエンジンとの素敵な共生を邪魔しないことだ。

現時点では、アシストなしのセットアップだと、ハードなドライビングの際に他にはない正確さを発揮する。ロック・トゥ・ロックの回転数を今後もう少し上げる予定であり、そうするとスピードのスリルは若干鈍るものの、街乗りでは扱いやすくなるだろう。

サスペンションはTracTive製のコイルオーバー式サスペンションで、コックピットで調整可能なセミアクティブシステムとなっている。私なら?おそらくいじらないだろう。スロットルを80%から100%に切り替える魔法のボタンも同様で、とても楽しいが、ぱっと見は気がつかなかい。

タイヤは、ヨコハマ製ヘリテージ・フックス3ピース・センターロック・アロイを履き、重量、敏捷性、バランス、そしてコーナーからの力強い脱出、すべてを可能にし、崇高な喜びを実現してくれる。

エンジンがあまりに力強く気持ちいいため、7200rpmで何度もリミッターに当たってしまったことは非常に驚きであった。ドライビング・エクスペリエンスに夢中になってしまう、ついついやってしまう。



しかしながらこの912Cはなんというマシンなのだろうか。ただ、これだけ軽量化されているのだから、日常的な長時間の使用に耐えるだけの頑丈さはあるのだろうかという疑問も浮かんでしまう。率直なところ、私のような不器用な人間には難しいかもしれない。他の人がどう感じるのか気になるところだ。


文:James Elliott

James Elliott

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事