純粋な12気筒を味わえるのは最後のチャンス?アストンマーティンヴァンキッシュ発表

Shunichi UCHIDA

アストンマーティンはフラッグシップにV型12気筒を搭載したヴァンキッシュを復活させ、本国と同じタイミングで日本でも発表した。実はワールドプレミア以前に一部メディアに向けて実車とともに取材する機会が設けられた。まさに日本市場をいかに重視しているのかの表れだ。年間生産台数は1000台以下とされ、納車は2024年第四四半期からの予定である。

フラッグシップ登場


近年アストンマーティンは次々と新型車を投入しているが、その最後を飾るのがこのヴァンキッシュで、これにより最新のラインナップが完成するという。

搭載されるエンジンは5.2リッターV型12気筒ツインターボで、最高出力は835PS/6,500rpm、最大トルクは1,000Nm/2,500-5,000rpmを誇り、最高速度は345km/hとアストンマーティン史上最速である。因みに48Vなどを含めたハイブリッドシステムは一切使っていない。



このエンジンでキーとなるのはブーストリザーブドテクノロジーだ。これは出力アップに対するレスポンスをさらに高め、特にオーバーテイク時やダイナミックな運転で力を発揮するもの。具体的には、どのようなパーシャルスロットル開度でも、通常必要とされるターボブースト圧より高く圧力を高めておくことで、フルスロットルが必要となった場合にすぐに応答できるようにするものだ。つまり、ターボラグを極力少なくすることが可能で、ドライバーの求めに応じ高いレスポンスが実現するのである。

また、アストンマーティンのフロントエンジンV型12気筒搭載車としては初めてZF8速ATとエレクトロニック・リアLSD(E-diff)の組み合わせを採用。このE-diffはESP(横滑り防止装置)に統合され、例えばホイールのスリップにリアアクスル全体で対応。あらゆるコンディション下でトラクションを最適化することが可能となったほか、介入自体も自然で違和感のないものだという。

DB12やヴァンテージなどと同様に、接着アルミシャシーにダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションとマルチリンク式リアサスペンションを備え、アンダーボディは剛性を強化する部材によって、DBS 770 Ultimateに比べ横剛性を75%向上。それに伴い、サスペンションもさらにスムーズな動きが可能となった。

ヘリテージを取り入れつつも


ボディサイズは、全長4,850mm、全幅(ミラー含み) 2,120mm、全高1,290mmで、ホイールベースは2,885mm、乾燥重量1,774kgと発表された。DBS 770 Ultimateと比較しホイールベースが80mm延長されたが、これはAピラーからフロントアクスルの中心までの距離が長くなったためで、その理由はよりロングノーズを強調したかったことと、エンジンの搭載位置を後方に下げフロントミッドシップ化したかったからだ。結果として前後重量配分を51%:49%と極めてバランスの良いものとなった。なお、ホイールベースは延長されているものの2シーター仕様で、ユーザーの声としてそれほどリアシートは重要視されていないことがその理由とされた。





ボディはフルカーボン製で大幅に軽量化に成功。同時に筋肉質ながら非常にエレガントさも纏っている。全体のシルエットはロングノーズショートデッキという多くのスポーツカーやアストンマーティンのデザインの鉄則に則っており、「ルーフラインはまさに近年のアストンマーティンの流れを汲んでいます。そしてフロント周りはOne77をモチーフにしているのです」と説明してくれたのは同社のヘッド・オブ・Q・スペシャルプロジェクトセールスを務めるサム・ベネッツさん。



そして新型ヴァンキッシュのデザインの見どころはリア周りといっても過言ではない。いわゆるカムテールと呼ばれるスパッと切り落としたような印象はまさにDB5やDB6を連想させるが、さらにさかのぼってDP215からもインスピレーションを得ているとのこと。サムさんによると、「当時は空力の効果が認められたものの、現在では他に有効な手段が多くあるため、今回はデザインとして採用しました」という。このDP215はルマン24時間レースに出場した車で、フロントエンジン車としては初めてユーノディエールで300km/hを超え、317.7km/hを記録したワークスマシンで、その後、テスト中にクラッシュ。近年レストアが完成した。

アストンマーティンDP212、DP214そして215(Photography:Matthew Howell)

そのDP215のリア周りはボディーカラーだが、今回の展示車はブラックであった。サムさんによると、「どちらを選ぶことは可能です。ボディーカラーだとトラディショナルに、ブラックだとモダンに見えるでしょう」とコメント。つまりビスポークでいかようにも仕上げられるということだ。



V型12気筒エンジンはアストンマーティンのアイコン的存在だとサムさんは語っていた。それは今後も変わらないとするが、一方で電動化戦略のもと、ハイブリッド化も視野に開発が続けられているようだ。従ってもしかしたら純粋な12気筒を味わえるのは最後のチャンスかもしれない。


文・写真:内田俊一 Words and Photography: Shunichi UCHIDA

内田俊一

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