ヨーロッパ遺産の日にKeringを訪れる|過去と現在のファッションが融合

Tomonari SAKURAI

毎年9月にヨーロッパ遺産の日がやってくる。この日は各地で美術館や博物館が無料になったり、普段は入れない施設の見学ができたりして、あちこちで長蛇の列が見られる。今回訪れたのはKering。Keringはファッション、レザーグッズ、ジュエリー、時計などの国際的な高級ブランドをいくつも傘下に持つコングロマリットだ。1963年にフランソワ・ピノーによって設立された。フランソワ・ピノーはアートコレクターとしても知られ、2021年にパリで現代アート美術館「Bourse de Commerce - Pinault Collection」をオープンさせている。Keringには、Gucci、Saint Laurent、Bottega Veneta、Balenciaga、Alexander McQueenなどの名だたるブランドが連なる。

そのKeringのパリ本社は、セーヌ川の左岸、老舗デパートのボン・マルシェの隣に位置する。この建物は元々1634年に王室の支援を受けて建てられた病院で、慢性疾患や治療不可能な病を抱える患者を収容していた。バロック様式の礼拝堂があり、敷地内には広大な庭園もあって、17世紀から18世紀にかけてのフランスの建築様式が反映されている。19世紀初頭に、聴診器の発明者であるルネ・ラエネックにちなんで「ラエネック病院」と改名された。2000年に病院としての役割を終えると、Keringによる再開発と修復が行われ、2016年からKeringの本社として使用されている。

ラエネック病院の建物がそのまま使われている。中央の礼拝堂が入り口となっている。

本社の庭からの眺め。この建物は17世紀に建てられた修道院。ここには1830年マリアさまが降臨し、メダルを作って信仰を広めることで幸福になれるというお告げがあった。以来、ここでそのメダルは作り続けられ、そのメダルを手に入れるために世界中から人々が集まる場所となった。

中庭から礼拝堂を後ろから見たところ。ここがラグジュアリーファッションの中心地と想像できるだろうか?

そんなKeringの本社が、ヨーロッパ遺産の日に一般公開された。土曜日の初日、午前10時からオープンしていたが、その時にはすでに隣のボン・マルシェまで列が伸び、オープン前から1時間待ちの案内パネルを遙かに超える列となっていた。列の中からはフランス語だけでなく、英語をはじめさまざまな言語が飛び交い、世界中から注目を集めている様子が伺えた。

10時オープンを前に列に入ったときはすでに1時間待ちのパネルをゆうに過ぎたところに最後尾ができていた。ようやく15分待ちのパネルまで進んだところ。

門をくぐると、正面の広場を抜けて礼拝堂へと進む。礼拝堂の中には、ナイリー・バグラミアンやダン・ヴォーといった現代アーティストの作品が展示されていた。今年のテーマは「In Praise of Space」で、これらの作品がピノーコレクションから展示されている。

礼拝堂の内部の一部は当時のままで残っている。その当時のオブジェとモダンアートとの融合だ。

礼拝堂に飾られた作品。写真右、礼拝堂正面にはピア・パオロ・カルツォラーリの作品が。

そして、そこを抜けるとバレンシアガの特別展「Dresses Beyond Time」へと導かれる。この展示では、クリストバル・バレンシアガのアーカイブ作品と、現代のデムナによる最新のオートクチュール作品が並べられ、過去と現在のファッションが見事に融合している。

バレンシアガの特別展。1917年にスペインのバスク地方に誕生し、スペイン内戦で37年にパリに移った。モードの建築家と呼ばれオートクチュールの世界で影響を与え続けた。その過去の作品と現代の作品が展示されたのだ。

1967年冬のコレクションから。カタログのような枠を使った展示だが側面や後ろから全体のシルエットを見ることができる。

対話。時代を超越したルックスという展示。

壁に仕切られた隙間からコレクションを覗くという展示。1960年夏のコレクションから。シルクのロングコート。

1960年夏のコレクションから。ウールのスーツ。腰の絞り方が特徴だ。

2022年夏のコレクションから。

バックラインの変貌ということで、背中側を見せる形で並べて展示している。

パリでは、歴史的な場所と現代アートを組み合わせた展示が多く見られる。しかし、歴史的なものと現代アートが調和せず、ただ流行に合わせた現代アートを無理矢理歴史的な場所に置くだけで、互いに反発してしまうことも多い。その結果、正直不快な展示も少なくない。しかしKeringは違う。ここでは歴史的建造物と現代アートが絶妙に調和し、その空間が見事に表現されている。

Keringで、歴史と現代アート、過去と現在のファッションを体験できたのは、非常に貴重な機会だった。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

櫻井朋成

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