納得できるものしか作らない揺るぎない信念
+’J.A.T’(JUST A THOUGHT ちょっとした思いつき)
世界最高峰のPGAツアーでキャメロン氏のパターは使用率40%を超える。彼のパター作りのルーツだけではなく、多くのプロに信頼される理由を伺った。
車からのインスパイア
アメリカでは一般的にフォード派かシボレー派に分かれますが、父は根っからのシェビー乗りでした。つまり私もシボレー派になる宿命にあったのですが、高校生になるときには空冷エンジンのフォルクスワーゲンに興味をもちはじめました。
そのころはゴルフの練習をしながら、アルバイトをする代わりに、カルマンギアや21ウインドウのワーゲンバスなど、いろいろなワーゲンを修理したり販売をしたりしながら小遣いを稼いでいました。大学に進んでからはビートルを卒業。今度はポルシェ356に興味が移ります。価格が高めのポルシェを扱うようになると、ワーゲンよりも時間やお金の面で、少しだけゆとりができました。昼間はゴルフの練習をしながら夜は車の仕事をしていたのですが、この期間のすべてが、後の私にとってとても重要な経験となっています。
たとえばポルシェ911のパーツを356に装着するなど、大事にしている車に様々なパーツをアタッチすることが好きでした。356にはハニカム形状のテールランプをつけてみたり、バンパーもとり外してカットしてから付け直してみたり。
356のクーペをベースにコンバーチブルに改造をしてみたことがあります。その車はいま、浜松のスコッティキャメロンミュージアムに展示しています。当時この車をコンバーチブルに変更すると私が言うと、誰もが絶対にするべきではないと反対しました。でも自信があったのでルーフを自分でカットして完成。次にホロの骨組みを作ろうとしたら、これがどうしてもうまくいかない。そこでゴルフのシャフトを伸ばして使ってみたら、実にうまくハマりました。キャンバストップ製のホロの生地は自分で採寸して仕上げました。トップを見上げるとシャフトが見えるのは愛嬌です。今になって思うとこの車に私は手を加えすぎましたね。やはりオリジナルが一番だと最近は思うようになりました。
パター作りで大切なこと
多くの方によく聞かれるのが、パター作りは何から始めるのか、です。例えばインパクトしたときの感覚というのは、実は打音が大きく影響しています。仮に柔らかさを求めるならば、それが一体何を意味しているのかを細かくヒアリングしていきます。
PGAツアーで活躍しているジャスティン・レナードが私のところへ来たときは、「柔らかいフィーリングにしたいので、スリットを入れてほしい」という具体的なリクエストがありました。私は彼に、「スリットを入れると打音が高くなるだけ。それは決して柔らかくなることはない」と伝えました。彼のオーダーと実際の期待には、実は大きなギャップがあったわけです。
つまり私は、最初にそのプレーヤーが何を望んで求めているのか、それを理解することから始めるのです。この作業にはとても長い時間を要しますが、じっくりと話を聞くことで、本当に望んでいることを正しく理解できます。そして数週間後には、その答えとなるオリジナルパターが完成するのですが、それをプレーヤーに渡すと「これこそが、自分の求めていたパターです」とほとんどの方が満足してくれます。
J.A.T ちょっとした思いつき
私のパターのネーミングには特徴があると、よく言われます。印象に残る商品名は本当に大事だと思っています。1970年代にクライスラーにはHEMIというエンジンを搭載したマッスルカーがありました。クレイジーパープルやパンサーピンクというボディカラーが用意され、それがとてもかっこよかった。特にマックスウェッジというハイグレードエンジンには特に興奮を覚えたものです。やはり自動車からのインスパイアですが、こういった経験からもネーミングはとても気を付けています。
自動車でボディはブラック、ホイールもブラック、そしインテリアもブラックといった組み合わせはクールですよね。このアイデアをパターに活かしてグリップもブラック、シャフトもブラック、ヘッドもブラックのパターをつくりました。これも車からの’J.A.T’(ちょっとした思いつき)です。ちなみに、このすべてがブラックなパターは「ジェットセッター(自家用ジェットで世界中を駆け巡る)」というイカした名前にしました。
100%のパター
今、私はとてもいい環境の中にいると思います。パートナーブランドのタイトリストは素晴らしいサポートを提供してくれますし、周りの人たちも私のビジョンをよく理解してくれているので、思い通りの仕事をすることができます。
私が望む優れた素材はどうしてもコストが嵩んでしまいますが、だからといって妥協した安価なものを作るつもりはまったくありません。私自身が本当にいいと思うものをマーケットに出し続けていけば、必ず理解してくれると信じています。パターをすべてアメリカの工房で作りますが、それも高いクオリティを維持していくためなのです。
PGAツアーのプロにつくるパターも、アマチュアにつくるパターも、私は常に要望に対する100%のものを提供しています。これからもこのスタンスを変えることは決してありません。
勝負を決めるクラッチパット、人生初のバーディパットなど、心に残る一打が私のパターによって演出できたならば、それは正にパター職人冥利に尽きると言っても過言ではありません。
まとめ:川端 恭子 写真:篠原晃一
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