ジャガーXJ13プロトタイプ|数奇な運命を歩んだジャガーの真髄

ジャガーXJ13プロトタイプ



私が自分自身で家を購入しようとしていたとき、あるベッドルームで懐かしい形のグレーにペイントされた模型を見たことがある。それはこのXJ13の風洞モデルだった。その家の持ち主が何と空気力学者のマルコム・セイヤーの親戚だったからだ。その時は、まさか自分が本物のXJ13を運転することになるなどとは、夢にも思わなかったが、それが今、現実になろうとしている…。

リチャード・メイソンが暖機運転をして、すべてが正常に機能していることを確認した。いよいよ私がXJ13を転がし、ブランズ・レーンの連絡通路を走る番だ。XJ13と私だけの時間。今、夢が現実になった。

私はアルミ剥き出しのサイドシルをまたぎ、羽のように軽いドアを引いて閉める。ウッドリムのステアリングホイールと、アビー・パネル社のバケットシートに座る。キャビンには当時の姿がそのまま残っていた。40年分の時の流れを感じさせる装置。そしてここはとても居心地がいい。いや、実のところかなり暑い。二本のオイルパイプが過剰な熱エネルギーを発しているのだ。

トグルスイッチでイグニッションをオンにする。フューエルポンプも同様に大きなうなりをあげてオンになる。イグニッションスイッチをさらに押し下げる。12気筒のコンプレッションに逆らって、いかついセルモーターが激しく揺れ動く音が聞こえる。そして502馬力のせっかちなV12エンジンが突如爆発した。ギアがうなり、カムのガタガタという音が響き渡る。修理済みのクラッチは重過ぎはしない。レバーは順序を間違えないようにしてギアをローに入れる。ごくわずかにアクセルを踏み込むとXJ13は勢いよく前へと飛び出した。

XJ13は残念ながらル・マン24時間レースのパレードには時間切れだった。しかし、MIRAでの走行試験を行った後、3週間後のル・マン・クラシックには、なんとか間に合った。XJ13はそこで完璧な走りとスピードを見せつけた。そう、40年も遅れて。

そして今、私たちは再びMIRAにいる。自由なスペースで本格的な走りを試すためだ。さぁ、慣らし運転だ。リチャードは5500回転を超えないようにとうるさく言うが、XJ13は完璧に、そしてついにレーシングカーとして再びよみがえっている。新しい塗装ではあるが、すでにエキゾースト周りのスモークも勇ましい。

まずは1971年にトラブルが襲ったバンクを緩やかなスピードで走ってみる。XJ13は穏やかなアクセルが気に入らないかのようだ。我慢ができないといったようにレヴは不安定で、明らかに苛立っている。しかしさらに踏み込むと、いきなり爆発的なパワーが溢れ出てきた。私はすぐにスピードを緩めた。

リチャードは、私を乗せてバンクの付いたトラックの周りを高速走行し、自分に課したレヴリミットを超えた。エンジンは快調。ウォリックシャーに素晴らしいサウンドを響き渡らせていた。その後、私はもう一度テストをするチャンスをもらった。今回はインフィールドにある、ダンロップのハンドリングサーキットを走る。少しばかりXJを本気にさせてみたいという気持ちが高まる。

これは本当に現実なのだろうか?

私は世界に1台だけのレーシングカーに乗っているのだ。かつて750万ポンドもの金額の付いた、そして高額なレストアが行われた、この最高のジャガーに。

もし私がトラブルを起こせば歴史的価値が台無しになる。しかしXJ13からは走りたいという切なる想いが伝わってくる。トルクの息遣いは荒く、インテーク・トランペットからのタフな唸り。そして私が目一杯アクセルを踏み込むと、5000回転を超えたサウンドが4本出しマフラーから響き渡る。

クラッチを踏み、シフトダウンをしてコーナーを入る。軽量ノーズが、驚くほどソフトなダンロップタイヤ(空気圧20psi/1.04kgf/cm 2で走行)に沈み込む。ボディがターンインするとテールの重みを感じる。優れたドライバーのために設計されたミドシップ式エンジンの典型的な走りだ。

ストレートに戻り、ツインカムV12エンジンの本当の実力を感じる。もし、あのルール変更によってその夢を打ち砕かれることなく、ル・マンでXJ13を走らせることができていたら、と想像をしてみる。

レース用のトリムはどんな風になっていたのだろう。300km/h以上で走らせてもタイヤが地面に食らいつくように、スポイラーやスクープを付けていたのだろうか。それは誰にもわからない。ただ私は、たった今、歴史上どのモータリングライターよりもこのXJ13を遠くへ、そして速く、しかも長い時間走らせた。

ジェントルマン諸君へ、私はこのことを心から光栄に思うのだ。

ジャガー XJ13
エンジン: 4994cc、 全合金製 V12、4-OHC,
2バルブ/シリンダー、ルーカス製 燃料噴射装置、ドライサンプ
最高出力:502bhp/7600rpm
最大トルク:約53.4kg m/6300rpm
駆動方式: ZF社製 5段MTトランスアクスル方式、四輪駆動
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、スタビライザー
サスペンション(後):ダブルウィッシュボーン
(ドライブシャフトをアッパーアームと兼用)、
コイルスプリング、スタビライザー
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(フロント/リア)
車重:1125kg
最高速度:約282kmh (ギアリング/テスト時)

編集翻訳:堀江史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.)
Translation: Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Photography: Matthew Howell, Ian Dawson


現在ブラウンズ・レーンで手掛けられているのは、ジャガーのヘリテージカーのみである


このV12は4カムエンジンのプロトタイプのひとつ。そしてギアドライブカムを装備した、XJ13のスペックで制作された、たった二基のうちの一台


左右/シミスターがMIRAでの本格的な高速走行に先立ち、ブラウンズ・レーンの連絡道路で慎重に車を走らせる


マルコム・セイヤーの空力を応用したそのシェイプは、40年たった今も美しい

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