まるで凍結保存されたような「バイヨンフェラーリ250GTスパイダー」をレストアすべきか否か

Photography: Evan Klein



"凍結保存"されたフェラーリ
コンクールデレガンスの前日、私は"17マイルドライブ"の中にあるポールの秘密のガレージを訪ねた。するとカリフォルニア・スパイダーを外に連れ出してもいいと言う。そこまで信頼してもらえたのは実に有難いことだったが、問題はクラシックカー・ウィークの最中で、モンテレー半島で史上最悪と思われる交通渋滞の中に注目のスターを連れ出さなければならないことだった。なにしろ半島のあらゆる場所に人々と車が溢れており、撮影とテストドライブに適した邪魔されない場所を見つけるのはほとんど不可能に思えた。そこで私たちはカーメル・ヴァレーにある、私が気に入っているスポットを使う許可を取りつけたが、ただそこに向かうにはカーメルの街を越えなければならない。ハイウェイ1号線も17マイルドライブも当然大渋滞であるため、仕方なく大きく遠回りすることにした。ぺブルビーチからパシフィック・グローブに抜けた後、裏道を使ってラグナセカに向かい、そこからローレルズ・グレード経由で山を越えて谷へ至るというルートだ。

最後にカリフォルニア・スパイダーを運転したのはもう何年も前だが、私は体が大きい方であるため(身長は190cm)、ロングホイールベース仕様が好みだった。ところが嬉しいことに、シートを一番後ろまで下げれば、"2935GT"の3本スポーク・ステアリングホイールの後ろに問題なく座れることが分かった。ステアリングが近すぎることもなく、ドアも肘を乗せるのにちょうどいい高さだった。そうやってみて初めて、「シャツの袖が埃で汚れているよ」と言われたことに思い当った。実は翌日のペブルビーチでポール・ラッセルも同じ奇妙な汚れ方について指摘されたという。もちろんそれは普通の埃ではない。

埃まみれであろうがなかろうが、カリフォルニア・スパイダーが特別な車であることに変わりはない。黒い跳ね馬が中央についたウッドステアリングの奥に、300km/hまで刻まれた簡潔なスピードメーターと8000rpmまでのタコメーターがよく見える。V12エンジンは即座にかかったが、回転が落ち着くまで最初の数マイルの間は時折、ハッとさせられるようなバックファイアを吐き出した。

ステアリングは申し分なくリニアで、操作に対してスムーズに反応する。現代のエキゾチックカーとは違ってカミソリのように鋭いターンインを見せるわけではないが、まるでドライバーの腕が直接前輪につながっているようなデリケートなステアリングフィールは、様々なセンサーからの電気信号で動く最新スポーツカーには望むべくもない。ブレーキのタッチはやはり固く鈍い踏み応えだったが、部品の経年変化を考えればまず妥当なレベルと言うべきだった。

伝説的なV12エンジンがそのトーンを変えるのを聞きながら何マイルか走った後、この変化はエンジン回転数によるものか、あるいはスロットルペダルの踏み込み量によるのかを確かめたくなった。ペダルを3分の1ほど踏み込んでみると、長い眠りから覚めたフェラーリは"本当に"目覚めた。キャブレターは空気を求めて猛々しい唸りをもらし、フードの下の機械音はより滑らかに調和し、タコメーターの針が上昇するより先にボリュームが増して行く。エグゾーストサウンドは4本のトランペットが一斉に吹き鳴らしているように素晴らしく、同時にステアリングもギアシフトも軽くなっていった。ギアシフトのストロークは私の好みよりちょっと長めだが、大きなシフトノブはちょうど扱いやすいサイズである。

カリフォルニア・スパイダーを運転する素晴らしさは、まさしく肌で感じることができる。速く走れば走るほど、車が身体にフィットするように縮む感覚はフェラーリならではの美点である。長年放置されていたことを考えれば、良い状態にあるとはとても言えないが、それでもスピードが増すにつれてなお車体の各部が引き締まり、車が小さくなったように感じられるのだ。ムンラス・アベニューを駆け抜け、ハイウェイ1号線に乗ってさらに踏んでみると、ドアが内側に少し動いたようだった。スロットルレスポンスはさらに鋭くなり、エンジンは素晴らしい音を発している。ギアシフトもさらに軽く正確に決まるようになった。

"ハイウェイ1"を数マイル走った後、東に向きを変えてハイウェイ68に乗った。ジャンクションのコーナーでもカリフォルニア・スパイダーは安定していたが、ステアリングホイールには若干の振動が見られた。これはおそらく古いボラーニ製のワイヤホイールのメンテナンスが必要ということだろう。

ここまでは水温計と油温計も90度以下で安定していたが、内陸に向かって外気温が高くなっても針はほんの少し動いただけ、ローレルズ・グレードの山道を上り始めても90度半ばまでしか上がらなかった。海沿いは涼しく、穏やかな波とカモメを背景に素晴らしい12気筒のサウンドを響かせるのはこの上なく清々しい経験だった。海の香りを吸い込みながら私は、このバイヨン・フェラーリとそれが世の中に与えた影響について考えを巡らせた。


輝く太平洋とは対照的に酷く傷んだバイヨン・フェラーリ。エンジンは慎重に再び命を吹き込まれた。クロームモール類は朽ちかけていたがすべて揃っていた。トランクリッドの大きな凹みは古い雑誌の山に隠されていた時にできたものだ。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Winston Goodfellow 

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