ヴォアテュレット インディ500<前編>|JACK Yamaguchi's AUTO SPEAK Vol.13

1966年フジ・インディ。リードするカーナンバー43はジャッキー・スチュワート/ローラ・フォード。すでに大半がミドシップだが、フロントエンジン・ロードスターが1台見える。(Photography:Jack YAMAGUCHI)



日本のオーバルコース
バンク付きオーバルコースでのレースは、戦後の日本でも試みがあった。フジスピードウェイは、当初バンクオーバルを意図したが、途中で設計変更されて、第一コーナーだけがバンク(最大斜度30度)の右回り、全長6kmのコースとなった。

1966年10月、インディ500のマシンとドライバーを招聘してフジ200が開催されたが、これはインディに倣って左ターンで行われ、バンク部分を使わないショートコースが用いられた。優勝したのはローラ・フォードを駆るジャッキー・スチュワートであった。すでに英、米国のコンストラクターのインディカーは大半がミドシップとなっていた。そんな中、フロントエンジン・ロードスターの王者、A.J.ワトソンが付き添ったワトソン・オフィーの走る姿が見られたのは幸運だった。ロードスターは、この2年後に絶滅種となる。

そして、日本唯一の本格的スーパースピードウェイがツインリンクもてぎに建設される。1.5マイル(2.4km)の10度バンクオーバルで、2003年から11年までインディ・ジャパン300マイル(480km)が開催された。東北地方太平洋沖地震で損傷し、以来モータースポーツには使用されていない。

ヨーロッパ勢のインディ侵攻
アップルパイとインディ500型スーパースピードウェイは、アメリカ特産と思われがちだが、両方とも旧大陸から渡ってきた。前者はイギリス、フランス、スウェーデンから渡来したが、アメリカ型がすっかり有名になった。

初期のインディ500主催者も"インターナショナル"を標榜し、巨額賞金と新世界での栄誉と商機を狙った欧州勢少数チームが遠征してきた。1911年、最初のインターナショナル500のグリッドは44台と多い。ヨーロッパ車はフィアット3台、メルセデス1台、ベンツ2台(ダイムラーとベンツ合併前)で、フィアットが3位に入った。優勝したのは、米国のマーモン、2位も同ロージエ、ドライバーもヨーロッパ勢の3人以外、すべてアメリカ人だった。

余談になるが、1923(大正12)年7月、大阪城東練兵場で開催されたレースの出場車は、すべてアメリカ車であった。そのうちの1台、カタカナ表示"ベリー"は正体不明だったが、1911年インディ500の記録から"Velie"であることが判明した。

1913年には、それまでインディに施行されていた最大排気量規定の9.8リッターが7.4リッターに変わった。そして情勢が一変し、欧州勢が台頭することになる。第一次世界大戦の影響で開催されなかった1917と18年を除き、1913から19年のインディ500優勝車はプジョーが2回、ドラージュ、メルセデス、米マーモンが各1回となった。

1920年代、インディ500主催者は、ヨーロッパのグランプリ動向に影響を受け、最大排気量を3回にわたって変更した。1920〜22年には3.0リッター、1923〜25年2.0リッター、そして1926〜29年に1.5リッター規定の実施である。1920年は、インディ500とイタリアのタルガフローリオが3.0リッターフォーミュラで開催され、21年にはル・マンが加わった。

1920年代に台頭したのが、米国のフロンテナックとデユーゼンバーグだ。1920年優勝車のフロンテナックは、シボレー創設者のひとり、ルイ・シボレーと兄弟が設立したレーシングカー・メーカーだ。グリッド24台中8台が、プジョー、バロー、グレゴワールのフランス車であった。

1923年、2.0リッター規則になって初年度に煉瓦コース(ブリックヤード)に現れたのが、5台のブガッティ・T29/30(OHC、3バルブ、直列8気筒1991cc)だ。フランス王家の血を引くドシストリア王子が9位で完走、他の4台はメカニカルトラブルでリタイアした。王子のレース資金源は、所有する城と広大な敷地の売却益であったという。

この続きは次回にて。アメリカ・レーシングカーの巨人、ハリー・ミラーの最盛期についてお伝えしたい。

1920、21年インディ500優勝車はフロンテナックで、シボレー創設者のひとり、ルイ・シボレーと兄弟が設立したのがフォード・モデルTのレースパーツとフロンテナック・レーシングカー製作会社。1920年インディ500優勝ドライバーは、シボレー兄弟のひとり、ガストン・シボレーであった。これは1921ウイナーのトミー・ミルトンが乗ったマシン。黒帽子、スーツ、口髭の人物がルイ・シボレー。(IMS)

文・写真:山口京一 Words&Photography:Jack YAMAGUCHI

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