究極を追い求めて│ジャガー Eタイプの歴史に新たな1ページを加えた1台

Photography: James Lipman



ロードラッグの特徴は、無駄をそぎ落としたレーシングカーではなく、洗練されたGTとして開発された点だ。オーナーはこう続ける。

「完全循環式のエアコンに、5段式ギアボックス、
電動パワーステアリングが揃っている。その上4.7リッターのアルミニウム製エンジンは本当に346bhpを発揮するから、走りが素晴らしいのも当然だ。この車は、セント・ジェームズ宮殿のコンクール・デレガンスの『現代のカスタムメイド・クラス』に招待された。大変な名誉だよ。そのときにロンドンを走ったが、運転したのはそれだけなんだ。仕事が邪魔してね。ちゃんと運転するのは、私より君のほうが先になるよ」



2011年にイーグルEタイプ・スピードスターで世間をあっと言わせたヘンリー・ピアマンとポール・ブレイスも、この特注のロードラッグ・プロジェクトには興奮を隠せない様子だ。ヘンリーはこう語る。「以前、状態は良いが完全なオーバーホールを必要としていた1967年Eタイプを蘇らせた。それをロードラッグのベースにしたんだ。総アルミ製の軽量ボディを作ってくれたのは、最高のボディで世界的に有名なRSパネル社だ。セイヤーのオリジナルデザインからの変更点をいくつか指定した。例えばコクピットのスペースを広げるためにフロアを低くし、ドアも伸ばしてアクセスを改善している。インテリアについては、遮断性を高めてレザーとアルカンターラで豪華にしつらえた。

エアコンも装備し、ボディとの段差がないガラスにはヒーターがついている。こうした装備によってロードラッグは現代でも機能的で快適に使えるものになった。

エンジンは、高トルクを誇るわが社の4.7リッター総アルミニウム製を搭載した。わずか4800rpmで最大出力を発揮し、その上、たった3600rpmで最大トルク360lb ftを発生する。このエンジンは多連式スロットルとECUによる燃料噴射式なので、レスポンスが非常にいい。合金製5段式ギアボックスは合金製のリミテッドスリップデフに接続。イーグル・スーパースポーツのサスペンションにオーリンズ製ダンパーとAPレーシング製ディスクブレーキを備える。16インチのマグネシウム製ホイールは、フレデステイン製で、フロントは225/55、リアは235/60のタイヤがこの外観とマッチしている」

仕様の話はこのくらいにして、走りに話を移そう。標準的な車よりずっと低い位置にあるバケットシートに滑り込む。車内はゆったりとしているがFHCほどの開放感はない。ダッシュボード中央とギアボックストンネルカバーは細かな模様の入ったアルミ製で、オリジナルに負けず劣らず魅力的。一方、小ぶりで太めの木製ステアリングは高めに配置されており、個人的にはオリジナルのほうが好みだ。だが、より幅の広いタイヤを操らなければいけないことを忘れてはいけない。

大きなエンジンが咆哮と共に始動すると、その瞬間、はるかに巨大なパワーがモノコックを通して伝わってくる。クラッチもギアシフトも操作感はがっしりとしているが問題はない。だが、アクセルに対する反応はより攻撃的だ。ポール・ブレイスによると、ECUはまだ最終調整中だという。



ロードラッグは低く唸りながら動き出した。エンジンは低回転から力強いパワーを見せ、速度を上げるにつれて滑るように進んでいく。せかすような熱く軽い感触は、わずか1038kgという重量のなせる技だ。4.7リッターエンジンはオリジナルより荒々しいが、どのギアを選んでも関係ないと思わせるほど即座にトルクが発生し、ジャガーはあり得ない速度で突き進んでいく。この車は冗談抜きで速い。現代のスーパーカーの中でも最速の部類だ。襲いかかるパワーに脳が付いてくるようになるまでには、しばらく時間がかかった。そのくらい、本気を出したこのマシンの猛々しさは、まったくもって驚異的なのである。

太めのウッドリムを伝わってくるステアリングの感触は、電動パワステでほんの少し鈍っている気がするが、恐らくはタイヤ幅が広いせいだろう。だが、ターンインは鋭く、シャシーもヨーイングすることなく素直についてくる。ギアを2つほど落とすと、エンジンノートが低い唸りから甲高いものに変化し、オーバーレブで小さな破裂音が聞こえる。静音性能の高いマフラーを付けているにもかかわらず、である。乗り心地は一貫して安定しており、減衰もよく効いているが、強すぎることはない。車全体がしっかり締まっている印象で、がたつきは一切ない。フラットアウトでは手に負えないほど速い車だが、狭い道をゆっくり走るのもお手の物だろう。そしてアクセルをごく軽く踏んだだけで再び飛び立つのだ。ロードラッグの仕上がりは、どこをとっても見事で、サウンドは元祖を上回るほどだった。これまでに運転したクラシックカーの中でもベストの1台であることは間違いない。これまでに運転したスーパーカーの中でも確実にトップクラスだ。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Robert Coucher 

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