究極を追い求めて│ジャガー Eタイプの歴史に新たな1ページを加えた1台

Photography: James Lipman



その夢を実現したのが、写真のイーグル・ロードラッグGTである。車高が低く幅の広いプロポーションで、径の大きなダークグレーのペグドライブ・ホイールを履き、それを収めるホイールアーチは女性的な曲線美を見せる。ワイドなリアのふくらみからは、凝縮されたパワーを感じるが、と同時にマルコム・セイヤーの優雅なデザインはそのままだ。ただ、アルミボディの下に隠された最高水準の技術が、スピードの誘惑に抗えずにうずうずしている気配さえ感じるのだ。無駄がなくしなやか。力強く攻撃的。そして何より速そうである。

究極のEタイプを目指した車とそのベース車を比較するためには、まずはオリジナルEタイプに最高のパフォーマンスを発揮させなければならない。ここで再びFHC4.2の登場である。冒頭で紹介したメタリックブルーの車は、元々イギリスで販売されたもの。イーグル社によって慎重なレストアが施され、外装はオリジナルの色に再塗装、内装もオリジナル通りのダークブルーのレザーを使用している。走行距離はわずか7万2000マイルだ。

サセックスに拠点を置くイーグル社は、Eタイプの改良アップグレード技術で世界的に有名である。ヘンリー・ピアマンとポール・ブレイスは30年にわたってその開発を重ねてきたのだ。イーグルのチームはそれを最高レベルの手作業で作り上げ、もしこの偉大なスポーツカーの製造をジャガーが続けていたらこうしていただろうという開発を行っている。このFHCも最小限のアップグレードを受け、安全性、信頼性、スピードが保証されている。



シリーズ1最後期に製造されたFHCは、ジャガーがシリーズ2に採用した電気系と冷却システムを備えている。イーグルは、完璧な再塗装を施しただけではない。5段ギアボックスを付け加え、サスペンションはジオメトリーを巧妙に変更して高品質のダンパーを装着、エンジンもオーバーホールしてわずかにアップグレードした。ほんの少し幅の広いクローム製ワイヤーホイールに225/60-15インチのコンチネンタル製タイヤを履くことで、Eタイプ設計上の小さな欠点であるトレッドが狭すぎる点を修正している。

運転を愛し、Eタイプで高速のグランドツーリングを楽しみたい人は、この車を選べばオリジナルのパッケージで素晴らしく満足のいく運転経験ができる。だが、それ以上のもの、究極のハイスピード・クラシック・スポーツカーを求める人には、イーグル・ロードラッグGTのほうがぴったりかもしれない。

このモデルを発注した人物もその1人で、経緯をこう説明してくれた。「イーグルEタイプ・スーパースポーツ・ロードスターを持っているんだ。素晴らしいマシンだよ。イーグルの4.7リッターエンジンを積み、イーグル独自のアップグレードもいろいろ施されている。それをグランド・ツアーといったコンチネンタル・ラリーで使っているんだが、笑えるのは、山道を高速で走ったあとで現代のポルシェのオーナーがやってきて、やっかいな道ではイーグルについていけなかったと打ち明けるんだ」



だが、ロードラッグに夢中になったのは、その外観からだったという。「2年ほど前に友人をイーグルに連れて行った。1台注文しようかと考えているというのでね。そのとき作業場にロードラッグのアルミ製ボディシェルがあって、その形に一目惚れしたんだ。これを使って新しい車を作ってもらわずにはいられなかった。むき出しのアルミが本当に美しかったので、ヘンリーとポールにこの色を再現してほしいと頼んだら、水銀を使った特別な塗装を考案してくれた。塗料に黒が多く含まれているから、クロームラッピングとは違うのさ!それに、窓枠やサイドミラーのような金属はすべて、当時の色合いに合わせてサテン仕上げだ。そのくらいディテールにまでしっかり気を配っているんだよ。特製の16インチホイールには、3種類のグレーを試した。ふさわしい見た目のタイヤに合うようにね。今風のロープロファイルタイヤは嫌だったんだ。それはマッチしないだろう」

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Robert Coucher 

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