BMW スーパーカー M1で夜明け前のマンハッタンを疾走する

1981年BMW M1(Photography:Erik Fuller)

BMW M1はレーシングカーとして生み出され、極めて洗練されたスーパーカーとなった。その実力をニューヨークの真ん中でテストした。

1日のうちで一番暗いのは夜明け前だという。大都会も寝静まるそんな時間に、ネオンがきらめくタイムズスクエアの静寂を破って、けたたましいエンジン音が響きわたる。レース生まれの直列6気筒エンジンがレブリミッターを打ち、燃え残った燃料がスロットルオフで爆発する音をファンファーレにして、鮮やかなオレンジ色のBMW M1が姿を現した。

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M1に出会って宗旨替え
これがフィリップ・トレダノのやり方だ。夜明け前、人気のないニューヨークで自身のコレクションを楽しむのである。今は日曜の朝6時。この時間なら、世界で最も有名な通りをほぼ独り占めにできる。フィルはロンドン生まれのアーティスト兼写真家で、マンハッタンを拠点にして25年以上になる。車の収集を始めた頃のお気に入りは、フェラーリ・ディーノ246 GTやランチア・フラミニア・スポルト・ザガート、イソ・グリフォといったイタリアンビューティーだった。それがM1との偶然の出会いで変わった。

「ディーラーにデ・トマゾ・マングスタを試乗しに行ったときのことだ。見る分にはいい車だが、運転してみてがっかりしたよ。するとディーラーが『M1を試してみませんか』と言うんだ。M1を買うなんてそれまで考えたこともなかったけれど、せっかくだからと試してみた。ちょっとばかり踏み込んでみた途端、度肝を抜かれたよ。以来、ハマりっぱなしさ」

要するに、フィルはM1を大いに気に入ったのである。特に、レース生まれのストレート・シックスがレッドライン近くで放つ咆哮とパワーに惚れ込んだ。そして同時代の車、なかでもMのようなレース由来のホモロゲーションスペシャルにすっかり宗旨替えした。今やフィルのガレージにはM1のほかに、ランチア・デルタS4ストラダーレ、ランチア037、ポルシェ924GTSカレラ・クラブスポーツ、プジョー205 T16が並ぶ。

「こういう車は本当にスペシャルだ。すべてがひとつの目的のためにできている。レースで勝つためにデザインされ、ロードカーに生まれ変わった。その逆ではなくてね」とフィルは話す。

レース生まれのロードカー
その特に優れた例がM1だ。じっくり見ると、レーシングカーらしいディテールがあらゆるところに見つかる。エアインテークや気流を操るボディワーク。スカートの下からのぞくのは、フォーミュラカー並みの長さを持つリアサスペンションのロワーコントロールアームだ。エンジンカバーを開ければ、ドライサンプを採用したことでエンジンが可能な限り低い位置に沈んでいる。同時に、カーペットを敷いた広い実用的なカーゴスペースもある。グラスファイバー製のボディワークはいかにもジウジアーロらしくシンプルでシャープ、それでいてエレガントなシルエットだが、パネルフィットなどの製造品質も抜群だ。そう、M1はレーシングカーでありながら、一般道でも実際に"使える"車なのである。

現代の道路環境に置いてみると、M1の使い勝手のよさがいっそう際立つ。穴のあいたマンハッタンの舗装をものともせずに走る姿を見ると、サスペンションがしなやかなのではと錯覚するほどだ。ライドハイトは常識的だし、タイヤのサイドウォールも現代を基準にすれば充分に厚い。そして、この舞台がまた格別だ。タイムズスクエアの照明でスピード感が増幅され、ガラス張りの壁や磨き上げた石の壁にオレンジのウェッジシェイプが映り、エンジンサウンドがオペラハウスのように反響する。

M1の魅力がエンジンだけというのは正確ではない。だが、搭載するストレート・シックスは間違いなく傑作だ。パウル・ロッシュとそのチームは、グループ5とIMSA用に純粋なレースエンジン、M49/2を既に造り上げていた。これを搭載した3.5 CSLで、ピーター・グレッグ/ブライアン・レッドマン組は1976年のデイトナ24時間レースを制し、BMWにアメリカでのトップレースでの初勝利をもたらした。さらにBMWは新たにグループ4と5に対応した専用のレーシングカーとしてM1の開発を決めると、持てるレースエンジンの新バージョンとしてM88/1を生み出した。ホモロゲーション取得のためには400台の製造を必要としたが、実際にはロードカーが399台、レーシングカーが54台造られたとBMWのエキスパートは見ている。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.)原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Simon Aldridge Photography:Erik Fuller

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