「運転した中で最も獰猛な車」と伝説のドライバーが語るポルシェとは?

Photography:Ian Dawson



キャビンの中はそれこそ戦争状態である。信じられないほど騒音で満ちており、その音はギア付きのフード攪拌機がどうしようもない状態に陥ったときに発する音によく似ている。水平対向6気筒エンジンの音はデリケートなイタリア製のやすり、もしくはデトロイト製の輪転機がせわしなく動く音を思い出させる。にもかかわらず、最高出力は最高回転数より低い幅広い回転域で得られるのだが、どのあたりがピークパワーなのかはエンジン音から判断できそうな感じだ。

しかし、周囲の目とはおかまいなしにデレックは心底935を楽しんでいるように見える。サーキットを走っている他のドライバーの度肝を抜くような走行を何周かしたあとピットに車を入れた。慣れ親しんだ911と同じドアを開けると、熱の塊がキャビンからあふれ出した。しかしデレックは疲れた様子もなく車を降りた。「車の中は本当に暑いしうるさいよ」彼は顔から吹き出る汗をぬぐいながら言った。この車をドライブするために求められるスキルは、オープンプロトタイプカーとくらべるとすべてが大幅に違うという。
 
「この車はシングルターボだが、私はそうい
う車でレースをしたことがないんだ。でもすぐに慣れて快適に走れたよ。がっちりとした旧式のギアボックスにもね。後期モデルなんかはフルパワーをかけなければとてもニュートラルなステア特性なんだ。全部かけたらどうなるかって? ターボの数に関係なく暴れまくるよ。でも走り始めて思ったんだが、この車が初期モデルであることを考慮すればけっこういいステア特性を最初から持っていたんだねえ」

「特別なコーナリングテクニックはないかだっ
て? あるとしたらただひとつ。できるだけスムーズな走りを心がけることだ。スロットルを激しく踏むのは禁物だよ。スムーズなラインでコーナーに入ったらフロントタイヤがグリップを
失わないように回り、コーナー出口に来たらできるだけ早くスロットルを開けること、それが私の答えだ。そしてできることならコーナー途中でスロットルは閉じないほうがいい。じっと我慢して右足を踏んでいればアンダーステア
の状態を維持できる。さもないとテールが外側に出て行って「ワオ!」の状態になってしまうからね。それは突然やってきて、いきなりオフロードをレーシングカーで走っているかのような状態になってしまう。まあその程度でとどめられるなら、笑ってすませられるんだけどね」



以上のことから935をひと言で語るなら、同時代のポルシェ・レーシングカーの中ではひときわ特別な存在だったということ。しかし最も大事な共通点を忘れてはいけない。それは常にウィナーだったということだ。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Peter Morgan 

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