文句のつけようのないアストンマーティンDB5コンバーチブルを走らせる 

Photography:James Lipman


 
現在の見事なコンディションを見てもわかるように、この車は
2008年8月に開かれたペブルビーチ・コンクールデレガンスでアストンマーティン戦後車の部門で第1位を獲得。今日でも文句のつけようのない状態を維持している。幌を開けるといかにも居心地のよさそうな居住空間が目に入る。ダッシュボードの色、形状やコクピット・レイアウトなどはいかにもアストンらしい伝統のある、それでいて親しみやすいものであるし、細かく見ていっても、当初から付いていたと思われるモトローラ製のラジオには"Aston Martin"の文字が入っている。ステアリングを握っているとき、それを目にするのはオーナーとして誇らしいものだ。

ートに使われているコノリーレザーはドライバーをやさしく包み込み、ウッドリムのステアリングホイールは得も言われぬ感触を与えてくれる。トゥーリングのボディは見るだけでオープンロードを走り出したい気にさせてくれる。

コバムからイースト・サセックスまで国道A3を走ると、このアストンのスムーズで快適な乗り心地を存分に味わうことができる。曲がりくねった田舎道で俊敏さを見せるのとは違った側面だ。サスペンションはかなり硬いが、穴だらけの道でも衝撃をよく吸収し、常に落ち着いた挙動を見せる。スカットルシェイクはもちろん、ガタガタという音やきしむような音もまったく聞こえない。直列6気筒の4760㏄のエンジンの余りあるトルクも、快適性に寄与しているのだろう。

このエンジン、最高出力は5500rpmで318bhp、
トルクのピークは4000rpmで346lb-ft(約47.8mkg)で発生するが、レッドゾーンの始まる6000rpmまで回しても303bhpと265lb-ft(約36.6mkg)に落ちるだけだ。



ビッグボアゆえにツインカムでも回転は安定しているし、低速でも高速でも、どの領域であっても柔軟な回り方を見せてくれる。5速ギアでクルージングしたときのエンジン回転は、90mph(約144㎞/h)で3500rpm、50mph(約180㎞/h)では2000rpmにすぎない。長距離ドライブも楽にこなせるというわけだが、ここぞというときにはアクセルペダルを踏み込むだけでよい。もし、峠道などで攻めた走りがしたくなれば、そこはシャシーが応えてくれる。ウェットだろうとドライだろうと、確実な手応えのステアリングは正確なターンインと余裕のあるリアグリップをもたらしてくれるが、そこには標準より少しだけ幅広のエイボン・タイヤが貢献していることは間違いない。

ブレーキもスポーティーな
ドライバーの要求に応えうる性能を持っている。高速走行時の風切り音が少ないのも驚きのひとつだ。スピードメーターの針が150㎞/hを指すまでほとんど聞こえてこないのだ。これは幌との接合が完璧であることの何よりの証である。この車をひと言でいえば快適な運転が楽しめるということだ。スピードの如何にかかわらず、安定した状態にいつでも浸っていられる車なのである。

以上のことから、この車が現存しているDB5コンバーチブルの中でも最も好ましい状態を保っていることはおわかりいただけたと思う。それが2015年2月のレトロモビル・オークションに出品された。落札額はコンバーチブルとしては世界最高額の143万715ポンド(直近のレートで2億1730万円)という記録的なものであったが、実際に見て感じてみると、高額落札もむべなるかな、である。

編集翻訳:尾澤英彦 Hidehiko OZAWA Words:Paul Chudecki 

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