エンジンの息吹を高らかに歌い上げるフェラーリの真髄



 
このように、V12とV6を搭載したフェラーリの主要ロードカーの系譜は、近年になって65 °のバンク角で結びつくこととなった。もちろん、V12とV6は長年レースの場でも活躍している。たとえば、バンク角120度の1.5リッターV6エンジンは、1961 年にフィル・ヒルにF1 タイトルをもたらした。その20年後、ターボ時代のF1でも1.5リッターのV6が使われた。ほかに、鋳鉄製ブロック(他のフェラーリエンジンはアルミニウム製)で強度を増したバンク角90°のエンジンもあった。また、1990年代半ばに登場したF50は4.7リッターV12 エンジンを搭載していたが、これは1991 年の3.5 リッターF1 エンジンから派生したものだった。
 
一方、F1がターボ時代に突入するまで、フェラーリ究極のレースエンジンといえば"フラット12"だった。重心の低さが長所だが、気流を妨げてしまうため、グラウンドエフェクトの空力面では不利となった。F1のフラット12は、V12の第1世代と交代する形で、トップエンドのロードカーにも反映された。その第1弾が、1973年に誕生したミドシップの365 GT4 BB(ベルリネッタ・ボクサー)だ。排気量は4.4リッターだったが、のちのボクサーやその後継にあたる1984年のテスタロッサでは4.9リッターに拡大された。テスタロッサの生産は、V12 エンジンの550 マラネロが登場する1996年まで続いた。
 
ここまでV6とV12について見てきたが、F1ではV10エンジンも活躍したことを付け加えておこう。しかし、いま街角でフェラーリを見かけたら、V8エンジンを搭載している可能性が高い。V8ではバンク角は問答無用で90 °だ。ただし、一般の高級車やアメリカン・マッスルカーのように、低音でドロドロと唸るものとはひと味違う。フェラーリのV8エンジンはクランクシャフトがフラットプレーンなのである。そのため、2組のシリンダーが同時に爆発し、高回転域で大パワーを発揮する。唯一の例外がランチア・テーマ8.32のフロントに搭載されたものだ。これはフェラーリ最初の量産型V8エンジン(308、328用ユニット)を元に、高級サルーン用にクロス
プレーンにモディファイしてあった。 

V8はそれ以前から存在した。例えば1961 年の2.5 リッターV8 は、構想のみで終わったロードカー用に開発され、スポーツカーレースで使用された。また、1963年にはF1用に1.5リッターのV8が設計された。前述の2.9 リッター308 エンジンは、1969年のディーノ308 GT4で初めて使われ、V6のディーノがディーノブランドと共に姿を消した頃に、308GTBにも搭載された。また、イタリア国内向けの208 では、税金の安い2 リッターに縮小され、ターボと組み合わされた。その後は4バルブ化され、さらに1994年F355の3.5リッターエンジンと、後継の1999年360の3.6リッターエンジンでは5バルブとなった。
 
このV8エンジンの系譜が出力のピークに達したのが1987年のF40だ。2.9リッターエンジンにツインターボを搭載し、478bhpを発生した。しかし、このラインは2004年のF430で途絶えた。まったく新しい4.3リッターのV8エンジンは、再び4バルブとなったが、F40を超える高出力を実現。シリンダーブロックは同時期のマセラティのクロスプレーンV8と共用された。また、ブロック以外はすべてが一新された次世代のV8 エンジンが、2009 年の458で登場している。4.5リッターの5バルブで、出力は570bhpに達した。
 
現行のV8モデル、488 GTBとカリフォルニアTは、いずれもターボ搭載で、少しダウンサイジングされている。現在のエンジンは、コロンボが最初に造ったV12とはまるで別次元の存在だ。しかし、両者をつなぐ"フェラーリらしさ"は確かに存在する。たとえば、アルミ鋳造のエンジンブロックだ。その複雑で精緻な形状には、エンジニアでなくても目を奪われる美しさがある。鋭いスロットルレスポンスや高回転域で溢れるパワーもフェラーリエンジンの特徴だ。そして何といっても、あの音である。研ぎ澄まされたクリアな音が共鳴し合って豊かなハーモニーを奏で、オットーサイクルを繰り返すエンジンの息吹を高らかに歌い上げる。これこそフェラーリの真髄だ。 

Words: John Simister

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