愛憎のポルシェ911│好き嫌いの裏に潜む社会背景

Photographs: John Colley, Porsche archives, Paul Harmer, Rex Features

好きか嫌いか。ポルシェ911に関しては、ドライバーの意見ははっきり分かれる。支持派は911こそ最も純粋で運転してゾクゾクする車だと主張し、否定派は後輪のさらに後ろに6気筒エンジンをぶら下げている911は危険で、奇妙な感覚の車だと声を大にする。そして実際に運転したことがない人々は、関わり合いになりたくないと敬遠してしまいがちである。
 
このような様々な意見は社会背景とともに語られるべきである。1963年9月のフランクフルト・ショーで最初の2ℓ911が発表された時、世の中には素晴らしいスポーツカーが他にいくつも存在した。すなわちジャガーEタイプやアストン・マーティンDB4、コルベット・スティングレイ、フェラーリ250GTなどだ。このような状況の下では相対的に高価だった130bhpの911はとても主流派としては認められなかった。その代わりに速く、そして控えめな車を求めるドライバーにアピールしたのである。
 
現代ではヒストリックカーに乗ることは自己主張の一種だ。中でも911は非常に強い主張だ。ただし、それはあなたがいる場所によって少々異なる。米国では911はひたむきなエンスージアストが乗るコンパクトなスポーツカーである。居心地のいい大きなアメリカ製セダンと一緒に広いハイウェイを走る旧い911のドライバーは、運転する歓びのために不快な乗り心地も我慢するマニアと見なされる。いっぽうヨーロッパでは911は速く機能的な道具として使われている。たとえば100マイル先の商談場所に向かって追い越し車線をフラットアウトで飛ばし、週末になればリアにスキーを縛り付けて山道を駆け抜ける賢く効果的な手段と考えられている。
 
そして、階級と嫉妬という不治の病に侵された我が英国では、当初ごく一部のマニアに絶賛されたが、そのうちにその高性能と実用性によってすべての若者の憧れとなった。一時はロンドン中心部を走る911は世界のどこよりも多い、と言われていたほどだ。1980年代に金融市場が活況を呈した時には、小金を稼いだシティの野菜売りの少年が自分のベルトの色に合わせて赤い911を買ったという話も流れた。しかしながらこういうウィング付きの赤いポルシェはたいてい早々と事故を起こした。ファイロファクスを抱えた金融マンたちも、911は決してステイタスシンボルなどではなく、容赦ない本物のドライビングマシーンだということに気づいたのである。
 
ポルシェの世界では911は大きく4種のカテゴリーに分類できる。つまり、1965年から69年までに生産された初期の2リッターショートホイールベースモデルは真剣にヒストリックレースやラリーに参加する人に人気が高い。次に1970年から73年までに生産されたモデル。エンジンは2.2~2.4リッターで、一般道でも使える理想的なクラシック911と言える。1974年には衝撃吸収バンパーが加えられた。この時代の911は最も人気がないとされるが、しかし1978年以降の911SCと3.2カレラは実用性も兼ね備えた素晴らしいクラシックモデルだ。

"モダン・クラシック" とも呼ばれるのは1989年発表のタイプ964以降のモデルだ。コイルスプリングによるサスペンションとデュアルマスフライホイールを備えたこのタイプは、それ以前の911とは大きく異なり、それゆえピュアなファンの評判はよろしくない。最後の空冷ポルシェである993は1994年発売、高い実用性と911らしさを備え、中古市場での価格も後継モデルの水冷996よりもむしろ高いほどだ。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Robert Coucher

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