それぞれの個性が輝く4台のポルシェ356

Photography: Paul Harmer


 
販売活動を取り仕切るのは、リー・マクステッド-ペイジ。アンドリュー・プリルは、その分野の第一人者として世界で名高いポルシェのエンジニアリングスペシャリストだ。ポルシェに関して完璧主義者であるプリルは、幅広い種類のポルシェのレストア、開発、メンテナンスを手がけ、レースもする。マクテッド-ペイジやプリルと話をすると、すぐにクラシックポルシェを取り巻く環境が大きく変わったことがわかる。Octaneの寄稿者であるデルウィン・マレットが最初のポルシェを買った1969年とは、わけが違うのだ。
 
1960年代や70年代は、ほとんどのクラシックカーがそうだったように、初期のポルシェも単なる古い車に過ぎず、おまけにたいていひどく錆びついていた。新しいうちはジャガーでさえ及ばないほど高額だったが、すぐに天候やドライバー、メカニカル的な衰えによってボロボロになった。粗悪な中古を購入したエンスージアストは、出来るだけ安くレストアして、わずかなコストで維持したものだ。しかし、その美しさや技術、ポテンシャルが知れわたるにつれて、事態は変わり始めた。

「ポルシェの名は、フェラーリと並んでトップに君臨する」とはマクステッド-ペイジの言葉だ。「1950年代や60年代のフェラーリの価格を、同時代のポルシェと比べてみてほしい。私に言わせれば、ポルシェはあまりにも過小評価されているよ。確かに小さめだが、軽量でシンプル、純粋で機能的だ。当時にしてみれば、非常に高性能のマシンで、レースでもしっかりと偉大な成功を収めている。ル・マンやミッレミリア、厳しいリエージュ・ローマ・リエージュやカレラ・パナメリカーナでね。そのうえポルシェは現代の運転環境でも非常に使いやすい」
 
アンディ・プリルもこう語る。「デニス・ジェンキンソンは、F1グランプリを伝えるためにポルシェ356でヨーロッパ中を走り回り、この車を本当に気に入っていた。ある旅では、エンジンが落っこちたので、ロープでくくりつけて走り切ったんだそうだ」
 
ここに並んだ4台の356を見ると、その水準が安物の車だった時代から劇的に向上していったことが手に取るようにわかる。今では、どんなポルシェ356も憧れの対象だ。大切に守るべき見事な技術の結晶。「この車を買わせるのは、頭ではなく心だ」とマクステッド-ペイジは加える。それは、想像以上に高額だという意味も含めてのことなのだろう。
 
その言葉で現実に目が向いた。ポルシェ356は、旧式のアルファスッドより、さらに情熱的に錆び付くのだ。複雑なモノコックはコーチビルトのスチールボディパネルをまとっている。組み合わされたカーブは手で滑らかに継ぎ合わされ、ハンダで埋められている。1950年代や60年代は、生産過程に錆止め処理など存在しなかった。

「確かに、356のレストアは高くつく。たいていの場合、一歩後退する羽目になるんだ。過去のお粗末な仕事を直して、もう一度出直す。パーツは手に入るが高額だし、修復には人手がかかる」とマクステッド・ペイジ。
 
普段から率直なプリルはこう続ける。「ドイツのポルシェ・クラシックは、以前とは変わってしまった。スペアやパーツの製造を推奨するのではなく、供給や値段のコントロールのほうに関心があるみたいだ。だがその結果、アメリカやドイツ、イタリアでスペシャリストがパーツを再製作し、技術開発を続けている。ただ、中国製のものは買っちゃいけない。経験から言って、がらくただ!」

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Robert Coucher 

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