それぞれの個性が輝く4台のポルシェ356

Photography: Paul Harmer


 
当然ではあるが、今回取り上げる中でも正真正銘、一番356らしい外観なのが、1953年のプリAだ。ドイツのレーシングカーらしい銀色に仕上げられ、コンパクトで曲線の美しいこの小型車は、実に魅力的だ。いかにも1950年代的な車体の丸みで、機能一辺倒の感じは和らいでいるが、ボディはとにかくちっぽけに見える。外側は小さいが、プリAには謳い文句通り、大柄なドイツ人2人と荷物が入るだけのスペースがある。フロントのトレーリングアームとリアのスイングアクスル式サスペンションはかなり荒削りだが、スプリングは独立している。さらに、車重はわずか850kgであり、スーパー仕様のプッシュロッドエンジンの出力は、60bhpもある。

356の中でもプリAは、ヨーロッパとアメリカの自動車勢力図の中でポルシェの名を知らしめた立役者だ。ポルシェ設計による3分割式クランクケースや、軽合金のシリンダーと半球型のシリンダーヘッドを開発して、ルーツとしてきたフォルクスワーゲン製エンジンと一線を画したのがこのモデルだった。ポルシェはここから、憧れの対象へと進化していったのである。
 
ポルシェのエンスージアストには、昔にこだわりすぎるとか、エンジンの番号を照合したり来歴をチェックしたりして、自分の車のオリジナリティに夢中になりすぎるといった傾向もあるのだが、レースで使われたこのプリAは、その伝説を調査するのにもってこいだ。公道を走る規制も満たしており、田舎道を飛ばすこともできるこの小さな356を見れば、ポルシェのヒストリックレースに関わる人々の能力がよくわかる。非常に優れたレーシングカーだが、厳しいFIAの基準もパスしているから製造時期も折り紙付きであり、1950年代にポルシェならこう作っただろうというような正真正銘のレーシングカーなのだ。事実、この車はベイルートのアブシャクラ氏に新車として納められ、ロバート・ネイガーの運転で1955~56年にイスラエルのハイファでレースしている。だから、今こうしてヒストリックレーサーを装っているのも、しごく当然だ。
 
バンパーが取りはずされていることと(それは今もイスラエルにあるらしい)、エイボンのCR6ZZタイヤを履いて少し車高を下げてあることを除けば、このプリAのエクステリアはスタンダードなものだ。乗り込んでみると、レースシートがやっかいだし、すぐ後ろに大きなロールケージがある。エンジンは正統な1488ccのままだが、プリルが手を入れて、出力はなんと130bhpにまでチューンされている。
 
公道に出ると、文字通り飛ぶように走る。この356の走りは、まるで道路に吸い付いているようである。コーナーでは、曲がるというよりレールに乗ったように突き進む。小さなボディはさらに縮んだようにも感じられ、前方の視界はあたかもテレビゲームのようだ。コーナーを次々と抜けていく容赦ないプリルの運転で、曲がったり飛んだりするたびに胃が置き去りにされる。この356が2006年ル・マン・クラシックで、総合のチーム優勝およびパフォーマンス賞を受賞した立役者であったということもうなずける。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Robert Coucher 

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