どちらを選ぶ?素晴らしい2台のスポーツカー アルピーヌA110とA110Sを乗り比べ!

Photography: Keishi OKUZUMI

ここ数年の間にデビューしたスポーツカーの中で、個人的に最も衝撃的だったのは新しいアルピーヌA110だった。2017年年末の南仏での初試乗、日本導入直後の都内の一般道や首都高速やいつもの箱根での試乗、ピュアとリネージでそれぞれ往復1500kmオーバーを試してみたロングドライブなどなど、様々なシチュエーションで様々な走らせ方をしてみた。(文:嶋田智之)

そしてその素晴らしい印象は、今もまったく揺らいでいない。速さは充分にあるが持て余さないギリギリの辺りに抑えたパワー、ドライバーの意志と直結してるかのような見事なハンドリング、僕のようなありきたりのドライバーにすら奥へ奥へとチャレンジさせてくれるコントロール性の高さ、疲れ知らずの快適性にエレガントな佇まい。何よりそれらの絶妙なバランス感。僕だけじゃなく、おそらくステアリングを握った人のほとんどが、異論を唱えず頷いてくれることだろう。

A110“S”は、そのA110の高性能版として開発された。どれほど素晴らしいスポーツカーが生まれてきても、スピードに対する欲求は次から次へと膨れ上がる。アルピーヌはもちろん、そんなことは先刻承知だったわけだ。

A110とA110Sの違いは、簡単にいうならチューニングの度合い、である。基本的な構成に変わりはない。最も大きく手が入っているのは、もちろんパワーユニットとサスペンション周りだ。さらっと説明するなら、1.8リッター+ターボのエンジンには、ブースト圧を0.4bar高めてマッピングを変更することなどで、最高出力は292ps/6400rpm、最大トルクは320Nm/2000-6400rpmへと向上している。トルクの数値は同じでパワーが40ps高くなってる計算だ。が、それよりも注目すべきなのは、パワーとトルクの発生回転だろう。最高出力の発生回転数が400rpm高くなり、最大トルクは2000rpmから6400rpmまで延々と噴出し続ける計算。より上まで回せて、どこからアクセルを踏んでいってもチカラを発揮してくれる、ということだ。ちなみに車重は1114kgだから、パワー・ウエイト・レシオは3.8kg/ps。A110より0.5kg/ps向上していて、そのための0−100km/hの加速タイムは4.4秒と0.1秒速くなっている。さらに最高速度は260km/hと10km/h伸びている。



とはいえ、加速や最高速を楽しむためのクルマは他にいくらだってある。アルピーヌは、誤解を恐れずにいうならば、その対極にあるようなクルマとして開発されてきてるのだ。シャシーのチューンナップの方に、どうしても関心が向く。A110Sでは、まずスプリングのレートがA110と比較してフロントは30Nmから46Nmへ、リアは60Nmから90Nmへと+50%も締め上げられている。データは開示されていないが、ダンパーもそれに合わせて最適化がなされ、ポリウレタン製のバンプストップも形状と硬さを変えているという。中空のアンチロールバーは素材の厚みが2mmから3mmへと厚くなり、直系もフロントが18.5mmから23mm、リアが19.5mmから23mmへと太くなり、その強度はA110のおよそ2倍なのだそうだ。コレに伴って車高の実寸は4mm下がっているが、それはフロア下のグランドエフェクト効果を高めることにも繋がっていることだろう。

A110がウイングを持たない空力マシンであることを忘れてはいけない。そしてそれらのチューニングを効果的に活かすため、タイヤもA110とは異なるA110Sの専用開発品。フロントが215、リアが245と10mm太い、ミシュラン・パイロットスポーツ4だ。いうまでもなく、スタビリティコントロールなどの電子制御系のセッティングもやりなおされているという。



となれば、スポーツカーとしてのパフォーマンスや走らせる楽しさと日常使いにおける乗り心地の快適さが特徴的だったA110をはっきりとパフォーマンスに振ったのがA110Sなんだな、と思われることだろう。実は昨年の秋、ひと足早くA110Sをポルトガルのエストリル・サーキットとその周辺で試乗できる機会に恵まれたのが、試乗の前にエンジニア氏に話を聞いたら、“A110Sではスタビリティを重視して、コーナーをより速く曲がれるようにしたんだ。パフォーマンスは間違いなく上がってる。でも、A110らしい普段の乗り心地のよさはちゃんと確保してるよ”という言葉が返ってきた。そこまで足を締め上げといて、さすがにそれはないでしょ……と思ったことを、よく覚えている。

文:嶋田智之  写真:奥隅圭之

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