どちらを選ぶ?素晴らしい2台のスポーツカー アルピーヌA110とA110Sを乗り比べ!

Photography: Keishi OKUZUMI



今回は日本に上陸したA110Sを、勝手知ったる筑波サーキットで、A110と比較しながら走らせることができるという試乗会。そこで受けた印象は、ポルトガルで感じたものと全く同じだった。

おそらく半数ぐらいの方がかなり気になってる乗り心地について最初に述べておくと、A110では気にもしていなかったピットロードの路面の微かな凹凸や舗装の継ぎ目が、A110Sではやっぱりそうと気づくぐらいには感じられた。ただしそれは不快に感じる類ではなく、角を上手に丸めた感じのモノではあるけれど、引き締まってる印象ははっきりとある。今回は一般道に出ることは叶わなかったが、エストリル・サーキットの周辺を走ったときには、路面の状態が良好なところでは何も気にならず快適と感じられるものの、荒れたところに差し掛かったときの凸凹のいなし方はA110SよりA110の方が巧み、と感じたものだった。現行版のルノー・メガーヌRSの乗り心地を連想した、といえば何となくフィールが伝わるだろうか。快適さはA110の方が間違いなく上だが、国が変われば路面も変わるわけだから、A110Sの日本の一般道で振る舞いはどんなものなのか興味深いところだ。



コースに入ってからのA110Sの乗り心地は、さすがに悪くない。もちろん路面が良好だからというのもあるけれど、わざとゼブラゾーンを踏みつけてみても衝撃がズンと伝わってくるわけじゃなく、A110に似た感じで綺麗にやりすごしてくれる。バネ1.5倍、スタビ2倍というのが、ちょっと信じられないほど。調律が巧みであることの証だ。

が、それを痛感したのは、御想像どおりやっぱり車の動きだ。いや、A110ピュアやA110リネージの動きも、もちろん悪くない。それどころか抜群に素晴らしい。これこそ最高のハンドリングカー、これこそ最高のコーナリングマシン、とすら感じられるほどだ。しかし、こうした場面でのA110Sは、もう一段階上なのだ。例えばブレーキングからターンインに移行するときのノーズの動きはさらに鋭敏さを増し、ステアリングはさらに正確になり、路面を捕らえ続けるチカラはグッと強くなり、切り返しのときなどのロールの具合や姿勢の収まりは明らかにシャッキリとし、コーナリングスピードも目に見えて速くなった。A110に乗っただけでは“これ以上はないだろう”とすら感じられていたのに、A110Sはあっさり大きく上をいっている。



A110ではこのくらいでタイヤがグリップを手放しはじめるという辺りでは、4つのタイヤが路面を掴んだまま余裕でグイグイ曲がっていく。 エンジニア氏の言葉どおり、スタビリティはかなり高くなっている。かといって、ベタベタにタイヤをグリップさせることにだけこだわった車なわけでもない。ブレーキングでフロント・タイヤに強く荷重をかけながらステアリングを切り込んでいけばスルッとテールは滑り出すし、先が巻き込んでるところでフッとアクセルを戻せば自分を中心にしてノーズがクッとインを刺しつつテールがツッと流れ、瞬時に軌道を変えられる気持ちよさも味わえる。後輪遊泳みたいな動きを楽しむことだって、ちゃんとできるのだ。しかもそんなときには、車が今どういう状態にありこれからどうなっていこうとしているのかということを驚異的といっていいほど解りやすく伝えてくれる。

正確なステアリングとツキのいいアクセルペダルで、そう難しいことなしにコントロールしていくことができる。そういうコーナリング時の抜群のバランスのよさは、これまでA110で感じてきたものとほぼ同じといっていい。違うのは、そのときのスピードの高さ、である。ここがA110Sの真髄なのだ。これはもう夢のように楽しい。夢のように気持ちいい。繰り返しになるけど、A110がダメなわけじゃないのだ。文句なしに素晴らしい。ただA110Sが、さらに素晴らしいのである。



もうひとつ、エンジンの出来が想像以上によかったこともお伝えしておかなきゃいけない。実際のところ40psの違いというのは、体感としてはそれほど強くは感じられない。それはおそらく全域がバランスよく力強さを増しているからなのだろう。けれどこのエンジンは、回転の低い領域でも力強さと扱いやすさがあるうえに、トップエンドまでツマリを見せずシャープに吹け上がっていく。特に中回転域から高回転域までの伸びの気持ちよさ、パワー感とトルク感は、A110のエンジンにはないものだ。これは問答無用で素晴らしい。力強さもさることながら、フィールの面でも大きく魅力を増している。このエンジンだけでもA110Sを選びたくなるほどだ。

スタンダードモデルのA110か、ハイパフォーマンスモデルのA110Sか。その選択は、ちょっと悩ましい。単純に考えるなら、乗り手がアルピーヌにどんなことを望むのか、どんなふうに楽しみたいのか、が選択基準になるはずだ。サーキットやワインディングロードで速さや走りの奥深さを突き詰めたい人なら、間違いなくA110Sだろう。ヒラリとしたスポーティなフィールを堪能したいけど日常的には小粋なベルリネットとしてデートにも使いたいし、グランツーリスモとしてロングにも乗って出たいという人なら、断然、A110だ。



けれど、どちらも爽快な速さ、絶品といえるコーナリング・パフォーマンス、乗り心地の快適さ、扱いやすさ、小粋なスタイリング……といった、惚れ込むだけの同じ理由を持っている。違うのは、それらのバランスの持たせ方だけ。細かいことをいうなら、A110でもピュアとリネージは微妙に乗り味が異なってたりもする。そんなふうに考えていくと、A110選びはちょっとどころじゃなく、だいぶ悩ましいような気がしてくるのだ。ただひとつ確かな真実を述べるとするなら、どれを選んでも存分に楽しく気持ちのいいスポーツカーライフを過ごせる、ということだろう。



文:嶋田智之  写真:奥隅圭之

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