やっぱりスポーツカーはマニュアルに限る! 7段MTが追加された、アストンマーティンヴァンテージ

マセラティがそうであったように、アストンマーティンの歴史も魅力的なクーペに彩られている。とりわけ第二次世界大戦が終わってデイヴィッド・ブラウンが経営に携わるようになってからのDBシリーズは、それぞれのモデルにそれぞれの世代のファンがつくような名車揃いのライン、といってもいいだろう。

その中のあって白眉と評されるのはDB4、DB5、DB6の一連のモデル達かも知れないが、僕達にとって馴染み深いのは、イアン・カラムがデザインしたDB7以降、あるいはヘンリック・フィスカーが仕上げたDB9以降のモデルの方かも知れない。その辺りから現行のラインナップに至るまでのモデル達は、代が変わってもヴァリエーションとして誕生しても全くのニューモデルとして送り出されても、いずれも難解なところなど何ひとつない麗しいフォルムを持ってして、大人の男(と女)を惹き付けてきたのだから。


今回のヴァンテージは、目下のところ最も新しいプラットフォームの上に成り立つ独立系のモデル。第4世代となる現行版ヴァンテージは2017年の晩秋に発表されたモデルだから、そういう意味でも新しい。ほかのモデル達と同様、古くからの英国流のいい方をするならフィクスト・ヘッド・クーペと並んでドロップ・ヘッド・クーペも最近になって追加されているが、今回の試乗車は、フィクスト・ヘッド・クーペでこの2月からチョイスできるようになった7段の手動式ギアボックスを備えている。その点でも最新といえる仕様だ。



アストンはこれまたマセラティと同じように、GTカー作りに長けているイメージが強いブランドといえる。けれどこのヴァンテージに関していうなら、ちょっと違ってる。1950年代から高性能モデルに与えられていた“ヴァンテージ=優越/優勢”のグレード名をそのまま車名にした先代から、それまで以上に運動性能にこだわったクルマ作りが行われているのだ。現行モデルについては、メーカー側がはっきりと“これはスポーツカーだ”と言い切っている。DB11はGTカー、DBSスーパーレッジェーラはスーパーGTカー、ヴァンテージはスポーツカーなのだ、と。もちろんDB11もDBSもしっかりスポーツカーとして走れる車なのだが、ヴァンテージはクルマ作りの考え方の段階からして重視しているポイントが異なっている。アストン・ファンからの支持が厚いV12ユニットを積むことをせず、4気筒分軽くて4気筒分短いV8ツイン・ターボを選んでいるのも、そのためなのだ。

とはいえ、基本的な作りがDB11やDBSと異なっているわけじゃない。アルミ接着工法による車体構成も同じなら、エンジンをフロント・ミドシップにマウントしてミッションをトランスアクスル・レイアウトにしてるところも同じだ。が、例えばホイールベースを100mm切り詰めていたり、アストンにしてはインテリアを簡素といえる仕立てにするなどして同じエンジンを積むDB11 V8より120kgほども軽く仕上げていたり、シートのマウントの高さにまで気を配って重心高を極力低くセットしたり、アダプティブダンピングシステムのセットアップをよりハードに振ったり……と、運動性能を高めるための工夫があらゆるところにこらされている。かなり意図的に“スポーツカー”であるように作られてるのだ。


2020年モデルに新たに設定された7段マニュアルトランスミッションは、かつてV型12気筒エンジンを搭載したバンテージSに使われたギアボックスである。


そんなこともあってか、スタイリングもアストンにしてはかつてないほど野性味たっぷりの攻撃的な雰囲気にしつらえられている。黄金比の魔術師というべきマレック・ライヒマンの作品らしくエレガントなシルエットを見せてはいるが、表情そのものには獰猛ささえ感じさせられる。デビューから2年が経過して慣れてきたのか、最近では“よく見るとカッコイイ”といった声を聞くことが多くなったが、当初は賛否がバシッ!と分かれていたものだった。

搭載するエンジンは、メルセデスAMG由来の4リッターV8ツイン・ターボのM177型。メルセデスAMG各車に積まれるM177型には476psから639psまでの様々なチューンが存在するが、ヴァンテージが積むのはC63Sと数値がほぼ同じ510psに685Nm。もちろんトルク特性やエンジン・サウンドなどを含めて、アストンが独自に調律を加えたものだ。それがこれまではZF製の8段ATのみと組み合わせられていた。新たに選べるようになったMT仕様は、そのトルコン式ATをグラツィアーノ製7段MTへと換装したものだ。先代のV12ヴァンテージSや200台限定で即完売した現行版ヴァンテージのAMR仕様と同じトランスミッションである。


搭載される4.0リッターV型8気筒ガソリンツインターボ エンジンは、最高出力375kW(510ps)、最大トルク685Nmを発揮する。



そして、そのトランスミッションを保護するために、MTモデルでは最大トルクを625Nmに抑えている。同時にヴァンテージの特徴のひとつだった電子制御デフの代わりに機械式LSDが組み込まれ、カーボンセラミックのブレーキが標準装備となり、それらの変更で70kg以上も軽くなっている。単にトランスミッションだけポンとすげ替えただけじゃないという辺りからも、アストンがヴァンテージのスポーツ性にどれほどこだわりを持って開発してるかということが推し量れるだろう。

ちなみに今回の試乗車にはフロントに大型のスプリッターとカナード、リアにウイングと、まるで世界各国のGTレースで活躍しているGT3やGT4のレーシング・ヴァンテージを連想させるエアロ・パーツが備わっている。それらはオプションとして用意されることになるもの。アストン・ファンには目立つことをよしとしない控えめな感覚を持つ大人も多いので、単純にルックスだけでいうなら、これまた好嫌が分かれることになりそうだ。


巨大なという表現がぴったりなCFRP製のフロントスポイラー。そしてバンパーコーナーのスプリッターやリアスタイルを引き締めるの大型ウィング型スポイラー。これら「レーシング エアロキット」はオプションであり、オーナーの好みで選択が可能だ。


現行版のヴァンテージに関して申し上げるなら、僕はこれまでサーキットも含めてかなりの距離を走らせている。他の現行ラインナップのモデル達にも先代ヴァンテージにも幸せなことに縁が濃かったから、それらとの違いももちろん解ってる。この日までMT仕様は未体験だったが、それだからして“おそらくこんな感じだろう”という推測は何となくできあがっていた。

確かに起きる現象としては推測のほとんどのところが間違ってはいなかった。けれど……いや、まいった。ヴァンテージのMT仕様、実は希望的な推測を遙かに越えて感動的だったのだ。


文:嶋田智之

文:嶋田 智之 写真:尾形和美 Words:Tomoyuki SHIMADA Photogaraphy: Kazumi OGATA

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