公道を走るF1マシンか否か ?! │650馬力を発揮するフェラーリ エンツォに試乗し気付いたこと

Photography: Paul Harmer



ニック・メイソン(ピンクフロイドのドラマーでスポーツカー/レーシングカーのエンスージアスト)が所有するエンツォを、アングルシー・サーキット(訳註:Anglesey Circuit :イギリス・ウェールズ北部)で走らせたことがある。ほぼ毎回、コーナー入り口でブレーキがロックして、コーナーの奥深くまで入り過ぎてしまった。加速しようとしてもトラクションコントロールが介入して思うように前に進まない。マシンをまっすぐにしない限り、ダッシュボード上のオレンジの点滅が止まらないのだ。これを回避しようとすべての補助装置をオフにしてみたところ、今度はリアタイヤが簡単にホイールスピンを起こして、テールがあらぬ方向へと滑り出し"ワルツ" を踊り出してしまう。

エンツォの評価は難しかった。どんなにがんばってみても単純にグリップが足りないように思えるのだ。そのため、ノーズをコーナーに向けることも、必要なトラクションをかけて加速を続けながら滑らかにコーナーを脱出することもできない。

コーナーでは入り口でアンダーステアに悩まされ、その後は長いあいだ電子制御に待たされてズルズルと横滑りをはじめる。接地感で唯一満足できたのは、アングルシー・サーキットのコース中で最速の"スクールコーナー"だ。おそらくそこでは774㎏のダウンフォースが効いていたのだろう。



エンツォは、紛れもなくエキサイティングで素晴らしいマシンだったのだが、残念ながら今では当たり前になった装備が、当時はまだ完全に開発されてはいなかったため古くささは否めない。たとえばシフトフィールでは"レース" モードでは特にラフであり、現代のDSGトランスミッションに比べるとはるかに反応が遅い。また、リバースギアを使うのは必要最低限にするようオーナーからは注意されていた。すべてのエンツォが同じかは不明だが、バックはクラッチに負担を掛け、その調整には1万ポンドもかかるというのだ。

エンツォが抱える根本的な問題は、相当の速度を出さなければ空力性能が役に立たないことであった。エアロダイナミクスこそがエンツォのパフォーマンスを支える不可欠の要素であったのだが、100mph(160㎞/h)以上で侵入できるコーナーなど、イギリスのサーキットにそれほど多くはない。そこで必要なのはメカニカルなグリップなのだ。もしスリックタイヤがあれば大部分は解決したことだろう。だが当時、公道で使えるタイヤにそこまでのグリップは期待できなかった。最近のハイパフォーマンスタイヤは当時のスリックよりもはるかに優秀だが、ただし、トレッドが温まらなければグリップを得られないことと、それほど長持ちしないことは覚悟しておかなければならない。

エンツォを購入した幸福な350人は明らかにこうしたことを気にしなかったのだろう。なにしろ、詳細なレポートはおろか、写真すら出回る前に完売していたのだから。だがテクノロジーは間違いなく進歩している。エンツォの魅力をあらためて知ることで、次の"究極のフェラーリ" のデビューを楽しみにすることができる。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Mark Hales

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