フェラーリのパトカーでカーチェイスを繰り広げていた!映画のような日常

Photography:Tom Gidden



スパタフォーラがフェラーリと過ごした日常は、まるで映画のようだったという。「夜明けに宝石店が襲われたと無線が入ったのです。私たちはどのギャングが実行犯か、そして奴らの逃げ場所もめぼしがついていました。すぐに追尾が始まり、もちろん逮捕しました」
 
ローマの犯罪組織には、ヴァレルンガ・サーキットで練習を重ねるような有能なドライバーが多数在籍していたが、スパタフォーラとフェラーリの組み合わせは、組織の中でも有名だった。警察車両の250GTEは若い犯罪者にとってはレジェンドになり、スパタフォーラの追跡から逃れることは、さながら"犯罪の大学卒業試験"に合格するようなものだった。



「私が逃走車両を追い越そうとすることはあり得ません。彼らに速く走らせようと、追い込むのがミソなんです。スピードを落とすと考える隙を与えてしまいますし、急に脇道に逃げ込むかもしれません。その点、全速力で走らせれば進路変更は難しいですし、やがてネズミと猫の戯れのような状態になるんです。たまに200㎞/hで軽く押してやると、逃走車両はスピンします。犯罪者には警察のほうが速くて、警察のほうが強い、ということを知らしめる必要があります」
 
250GTEは退役するまで、緊急性を要する"デリバリー"にも活躍した。ナポリで血液が必要だった際、スパタフォーラは高速道路上の200kmを50分で走りきったこともある。スパタフォーラとフェラーリの組み合わせは徐々に一般市民の間でも有名になり、やがてイタリアの雑誌で特集が組まれるまでに至った。

「スパタフォーラとフェラーリは現場で素晴らしい仕事をしましたし、素晴らしいマーケティングツールにもなりました。フェラーリは警察の仕事への認知を高め、職務に内在するリスクを知らしめました。ただ、それもいつかは終わりを迎えます。フェラーリ250GTEは1968年末に退役して、1973年に売却されたと記憶しています」と語ってくれたのは、長年、イタリア警察博物館の責任者を務めたアントニオ・ラウリートだ。
 
1973年7月5日には、イタリア軍の余剰品オークションにて落札された。警察車両として活躍した"3999"は、フェラーリ本社内の整備工場にてメンテナンスされてきただけあって、コンディションは極上だった。新しくオーナーとなったアルベルト・カッペッリは、3999の生い立ちを把握しているゆえにレストアすることなく、イベントでの展示はもちろん、ヨーロッパやイタリアでの走行会にも参加しながらも、40年間に渡って"オリジナル"コンディションを保ってきた。

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国)  Transcreation:Takashi KOGA (carkingdom) Words:Massimo Delbò Photography:Tom Gidden 取材協力:Girardo(girardo.com )

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