マクラーレン・オートモーティブCOO、ルドマン博士に聞く、プラグイン・ハイブリッド・スーパーカー新型アルトゥーラ11の要点

McLaren

2021年2月に発表されたばかりのマクラーレンの新世代ハイパフォーマンス・ハイブリッド・スーパーカー、アルトゥーラ。メーカー自身が「ベースからすべてが新しい」と明言するこの次世代スーパーカーについて、マクラーレンのチーフ・オペレーションズ・オフィサー(COO)のジェンス・ルドマン博士(Dr. Jens Ludmann)にインタビューした。来たるべき実車の日本上陸に備え、予習を兼ねてぜひご一読を。


今回のインタビューに答えてくれたジェンス・ルドマン博士。2017年にCOOに任命され、マクラーレン・オートモーティブ社の製品開発、購買、サプライヤー品質保証、製造など幅広い部門の責任者を務める。

Q1 まずはまったく新しいシリーズ、アルトゥーラの発表おめでとうございます。発表し終えての感想をお聞かせください。


A1
ありがとうございます。とにかく何から何までまったく新しいプロダクトでしたから、たしかに苦労も数多くありましたけれども、結果的には新しいタームへと突入するという非常に得がたい経験で、皆がワクワクする開発だったんじゃないでしょうか。私自身、エンジニアとしても非常にいい勉強になったと思っています。



Q2 アルトゥーラという名前の由来は何でしょうか?

A2
アルトゥーラは、 「アート・オブ・デザイン」と「フューチャー・テクノロジー」のハイブリッドを意味する造語です。従来のモデルよりも優れていることはもちろんのこと、より芸術的なスタイルと、次世代の新しいテクノロジーを軽く小さく詰め込んだ。まさに新型車のエッセンスを物語るネーミングだと思っています。

Q3 最近、ファミリィネームを持つモデルが多くなりました。以前のような数字と英文字だけのネーミングはやめるのでしょうか?

A3
はい、確かにこれまでのネーミング方法では派生モデルを増やしていくに従って、混乱するユーザーもいらっしゃいました。(筆者註:たしかに570Sと720Sでは知らない人が見ると数字しか違わない、という状態となる) ベースとなるファミリィネームがあった方がわかりやすいでしょうし、そこから派生モデルを増やすのであれば、それがどういう車なのか理解しやすくなるんだと思います。セナやスピードテール、エルバがそうであったように、今後も商品のキャラクターにあったファミリィネームを採用していきたいと考えています。

Q4 どうして今のタイミングでハイブリッドのシリーズモデルを発表されたのですか?

A4
電動化は時代の流れだといっていいでしょう。であれば、できるだけ技術の実現を先取りしていきたいとマクラーレンは考えました。ハイブリッドテクノロジーに関していえば、メリットとして日常の使い勝手から性能アップまで様々に見込まれる技術でしたからね。既にマクラーレンはアルティメットシリーズのP1やスピードテールで早くからハイブリットモデルには取り組んできたわけですから、あらゆる場面におけるドライビングエクスペリエンスを究極に高めるためにハイブリッドテクノロジーを使うことができると確信したわけです。マクラーレンにとっては今こそ、スーパーカーセグメントにこのパワートレーンを投入するべきタイミングだったのです。



Q5 まったく新しいボディ骨格を開発されました。特徴はどこにありますか?

A5
新しいモノコックボディの秘密は、バッテリーを守るよう一体設計した点です。バッテリーが完全に骨格に統合されているのです。成形のプロセスも特殊な方法をとっています。



Q6 この骨格を他のモデルへと転用することも考えていますか?

A6
今はこのまったく新しいプロダクトに集中する時だと思っています。未来の話はできませんが、このアーキテクチャーと技術をベースに派生モデルを考えることは十分可能だとだけ申し上げておきましょう。

Q7 ミドシップはEVに適したレイアウトではないでしょうか?

A7
おっしゃる通り、重いバッテリーの必要なEVはミドシップレイアウトが適しているといえます。アルトゥーラのように重心近くに配置することが可能ですから。



Q8 アルトゥーラのバッテリーはシートの後方床下に置かれているようです。どうしてその場所を選んだのですか?

A8
マクラーレンはこれまでのモデルでもいかに重量物を重心の近い位置へとまとめて配置するかにこだわって開発を続けてきました。なぜならそれがドライバーエクスペリエンスに大きな影響を与えるからです。バッテリーをドライバーの下やセンターに置く案も検討しましたが、これまでのモデルと同様にドライバーはできるだけ地面に近く座らせたかったし、助手席との距も縮めたかったのです。だから背後の床下を選びました。

Q9 マクラーレンの正義はとにかく軽いことだと認識しています。電動化を進めるにあたってハイブリッドシステムやバッテリーの軽量化は進んでいますか?

A9
おっしゃる通り、何にせよとにかく軽く作ることが我々にとっての課題であり続けることは確かです。今回の電気系システムに関してもかなり軽く仕上がったと思っています。たとえばモーターはP1より高性能で軽いんですよ。バッテリーを含めすべてのコンポーネンツを例外なく軽くしていくことが、今後の課題だと思っています。





Q10 ルドマン博士がウォーキングに来られて、変えたことと変えなかったことをお聞かせください。

A10
まず先に変えたくなかったことについてお話ししましょう。それはMTCで働くエンジニアたちの精神であり、モビリティに対する情熱でした。彼らの多くは、車であったりバイクであったり、中にはドローンであったり、とにかくそれぞれの趣味に合ったコンペティションの世界を楽しんでいるのです。一様にエンスージアストで、なおかつアグレッシブ、そのうえ創造性も高い。そんなエンジニアたちの志向は、実を言うとマクラーレンの顧客の方向性とよく似ていると思っています。

一方で、変えたことは開発のプロセスでした。生まれたアイデアの創造性や革新性をいかにスピーディに、そして確実に現実のものとしていくか。それとクオリティの向上ですね。品質も格段に向上しています。

Q11 噂によるとルドマン博士はレースもされるのだとか。

A11
はい、グリーンヘルを走りますよ!ニュルブルクリンク24時間レースは都合8回、参戦しました。マクラーレンGT4でカップにも出場しています。 フォード時代のマスタングも良い思い出ですね。そういったレースの現場を通じて顧客の気持ちを実際に体験することが実際の開発にはとても有効だと思います。



(インタビュー・文:西川 淳)


<編集部より>
アルトゥーラの日本でのお披露目が待ちきれないという方へ、2021年シーズンからマクラーレンに移籍したF1ドライバー、ダニエル・リカルドがブランズハッチでアルトゥーラをドライブする動画をお届けしよう。破顔のリカルド選手を見れば、アルトゥーラのもつ「ワクワク感」が伝わってこようというものだ。

インタビュー・文:西川 淳 Interview and words: Jun NISHIKAWA

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