伝統的な手法と現代の技術でフェラーリをレストモッド|モトテクニーク

Moto Technique

MODERN RESTORATION_03
新世代のビルダーが作るレストレーションの新しい形

「レストモッド」という一大ムーヴメントをひもとく特集、第3回はモトテクニーク。フェラーリをレストモッドすること。それは圧倒的な知識と技術を有し、あらゆるフェラーリをレストレーションしてきた者だけに許された悦楽だ。


388GTBiの名前の由来はフェラーリの様式になぞらえれば、3.8リッターV8エンジンを搭載したグラン・ツーリズモ・ベルリネッタということになる。308の間違いではない。紛れもなくそれはイギリスを代表するフェラーリスペシャリストであるケビン・オルークが率いる「モトテクニーク(Moto Technique)」が製作した"388"だ。

インテリアはケビンの息子ロブが率いるオルーク・コーチトリマーズ社によるもの。コノリーレザーを使用し、仕様はオーナーの要望次第だ。

モトテクニークを誌面で紹介するのはこれがはじめてではない。本国イギリス版『Octane』ではモトテクニークのレストアによる250GTOが表紙を飾り、2018年のオクタン日本版23号では、彼らが作り上げたディーノ"V8"(2.9リッターから3.6リッターにボアアップしたフェラーリF40のアルミニウム製エンジンブロックに348の4バルブヘッドを組み、最高出力は400bhp)を編集部が試乗、レポートをしている。

「恐ろしく速いだけでなく、実によくできたスポーツカーだ。これならロサンゼルスの市街地を走ってもストップ&ゴーを苦もなくこなすだろう。しかも大幅にアップグレードされた空調システムのおかげで、美しい車内は常に涼しいままだ。つまり、歴代フェラーリ 中随一のルックスはそのままに、現代スポーツカーのパフォーマンスを手に入れたのである。(中略)これは純粋なるフェラーリだ。あの偉大なるブランドが誇る美と洗練とパフォーマンスを、ドライビングシートに座る幸運な人間に味わわせてくれるのだから」

このレポートの締めくくりで筆者のロバート・コウチャーはディーノV8をして"アウトロー"ではなく純粋なフェラーリだと称している。あれから3年が経ち、あらためてモトテクニークについて代表のケビンに話を聞いた。

「12年を費やして自分好みの仕様にモディファイし、最初のディーノV8を完成させた のが2015年。フェラーリ328のV8エンジンと5段ギアボックスを搭載し、出力は300bhpでした。今でこそレストモッドやEVのフェラーリは世界中で受け入れられつつありますが、当時私の周りではちょっとした騒ぎとなり、私が狂ってしまったと思った人もいたようです」と笑う。ところがケビンのディーノV8にロサンゼルスの宝石商でフェラーリコレクターのデビッド・リーが注目したことで状況は大きく変わる。同時に、近年の価値観の変化や多様性も、ケビンたちモトテクニークを後押ししているようだ。もちろんそれまで培ってきた知識と技術がその根底にあるのは言わずもがなだが。

モトテクニークによるステージ3のチューンが施されたV8エンジン。オーナーの意向から
詳細な数値データは公表していないが、オリジナルのディーノ246 GT 2.4リッターV6エンジンを組みなおし、ECUマッピングを施したスロットルボディにアップグレードするだけで、227bhpの出力を得ていることからも、このエンジンがいかなるものかが想像できる。


「伝統的な手法と現代の技術を駆使して、古典的なエンジンから現代のエンジンまで、可能な限り最高水準のエンジンのリビルド、整備、アップグレードをおこなうことが、モトテクニークのエンジニアの目標です。4気筒、6気筒、8気筒、12気筒のエンジンを、時代に合った仕様と美学を備えた状態に復元するという細部にまでこだわった作業は、1980年以来我々が専門としてきたことなのです」

車の修復技術は、塗装やボディの素材から電子スキャン、アライメント調整や、エンジン管理システムに至るまで、すべての工程で進歩し続けている。例えば塗装に関してもオ リジナルのセルロースや空気乾燥アクリル、現代の2Kや水性塗料、そして水性塗料の素材や仕上げに至るまでには深い知識と経験が必要となる。1950年代のクラシックカーのためのカラーマッチングとそのアプリケーションは、フェラーリ488ピスタをペイントするのとはまったく異なる技術だ。

カンパニョーロのオリジナル15インチホイールをレーザースキャンし、伝統的な方法と砂型鋳造の技術を駆使して17インチにサイズ変更、まるでオリジナルと見紛う完成度を誇る。

メーターも完全に分解し、スケールの再調整をおこなう。

「1950年代、60年代、70年代に生産されたスポーツカーの美しさと独創性は決して疑うことができませんが、最初に設計・製造されてから数十年の間に技術は進歩しました」 そしてその進歩の成果を望んでいるのは顧客だという。ちなみに同社のレストモッドを所望する顧客の多くは40代前半から50代だそうで、ヨーロッパをはじめアメリカ、台湾、ハワイにも広がる。

「モトテクニークは顧客主導型のビジネスです。ここ数年で明らかになったことは、顧客はディーノや308のような古いクラシックスポーツカーを愛していますが、もはや標準的なレストアでは満足しなくなりつつあるということ。現代基準のパワー、ハンドリング、信頼性に加えて、快適さを求めています。最近では458イタリアのエンジンとF430のトランスミッションを使ったディーノGTSを作っています。この車にはF430のサスペンション、カーボンブレーキ、パワステ、ABS、トラクションコントロールも搭載する予定です」

ホームページを開くと以下のようにケビンは語っている。「0-100のタイムやトップスピード、BHP出力などの数値を並べても、そこに大きな意味はありません。むしろ重視しているのはフィーリングやフィードバック、そしてバランスであり、アナログな感覚を奪うような最新のドライバーサポートの技術は使用しないようにしています。我々が送り出す車は操ることを楽しむための車なのです」


オクタン日本版編集部  

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