甦れセリカGT-FOUR!ある一人の男と一台のセリカの物語

Photography:Chiba GARAGE, Tomoko TAKANO

サファリを疾走したC.サインツ、1000湖で"飛んだ"Y.カンクネン、ターマック走行のスペシャリスト D.オリオール。彼らが駆っていたマシンは、トヨタ自動車とTTE(トヨタチームヨーロッパ)が全身全霊を以てWRCに投入したトヨタ セリカ GT-FOUR RC(ST-185)だった。そんなマシンに魂を奪われたある一人の男と一台のセリカとの物語をお届けする。

グループAホモロゲーションモデルとして5000台が製造されたこのセリカGT-FOUR RCは、ホモロゲーション規則に則ったエアスクープ、インテーク、ワイドフェンダー水冷インタークーラー、大型タービンを備え、先代モデルよりさらに獰猛な野獣へと変貌を遂げた。1993年WRCではランチア、フォードと熾烈な戦いを見せ、トヨタに日本メーカーとしては初のドライバー、マニュファクチャラーのダブルタイトルをもたらした。その栄光は今もなお語り継がれている。生粋のラリーファンだった“ある一人の男”(以下Y氏と呼ぶ)は、ST-185にもランチア・デルタにも憧れていた。

1993年のモンテカルロにて、ドライバーはD.オリオール。この年にセリカはトヨタに名誉ある歴史をもたらした。(image:Alamy)

しかし、ランチアが猛威を振るうWRCの舞台で勇猛果敢と挑戦するST-185に対して、1人の日本人としてとりわけ特別な感情を抱いていたのであった。同様の気持ちを覚えた方もすくなくないだろう。

30年間の眠り


そして、Y氏とならぶ今回の主人公がこのセリカである。ファーストオーナーは1991年に車を入手し、わずか1700kmを走行した時点でガレージにしまいこんだ。なぜ、そうしたのか理由はわからない。それから28年が経ち、縁あってY氏が譲り受けることになった。助け出してきたセリカを自分好みに手を加え、息を吹き戻すため準備している間はガレージで温存することに。すこしずつ他の所有車を仕上げ終わり、まさしくこれからこのセリカ、というタイミングであった2021年4月のある日。誰も想像すらしていなかったであろう、不慮の事故でY氏は帰らぬ人となってしまった。突如として、セリカは行く場がなくなった。そこで、Y氏が生前愛車を委ねていた千葉ガレージの千葉代表は彼の志を継いで、ST-185のレストレーションをおこなうべく都内某所のガレージから引きあげることにした。

砂ぼこりを被った状態。写真では伝わりにくいが、長く動かされていなかったことを物語っている。

ほこりでブラックのボディにキズがつかないように、水洗いからていねいに。

 
新車からしまいこまれた28年間と、Y氏のガレージでの2年間、計30年間の年月はGT-FOUR RCに相応のダメージを与えていた。車体全体のほこり、松の樹液によるシミ、家人が横を通ってつけた擦り傷、下回りは砂だらけ。決して「綺麗」とはいえる姿ではないが、放っているオーラは明らかに砂ぼこりを被った他の車とは違う。野獣が眠っているような雰囲気すら感じられる。しかし、"野獣っぽさ"の大きな要素であるブラックは特に小さく浅いキズでも目立つため、より一層慎重に向き合う必要がある。ていねいな磨きでボディのキズをなめらかにしていき、この車の性質に合ったコーティングを施す。

磨き作業中の一枚。最初の姿とは見違える、威厳のある姿になってきている。

磨き後のリアビュー。しっかりとした主張のある風貌は、新車のようにすら見える。


松の樹液による塗装表面のダメージや少し欠けているGT-FOUR RCのデカールなどは、あえてこのままの状態で車のヒストリーとして残されている。千葉代表はどの車に対してもオーナーの好みや車の歴史、コンディションを踏まえて仕上げていくが、この一連の作業において一番に考えたことは「Y氏がここにいたら、僕にどうして欲しいだろうか」。

破れてしまっているGT- FOUR RCのデカール。これはあえてこのまま残された。
 
下回りはリフトに上げて水洗いをおこない、エンジンルームもインシュレーターを外してまでクリーニングをおこなう。また、走ることを前提にしているのでタイヤは4本が新品に交換され、すべての作業が終わった姿にはすっかり威厳が吹き返されていた。Y氏がずっと待ち望んでいた姿が、はっきりと目に見える“かたち”として完成された瞬間だ。こうして、再び走り出す準備が整った。

エンジンルームもボディ同様、ほこりを被っていたがすっかりリフレッシュされた。 

エアインテークなどボンネットのパーツも外せる限りは外して磨きをかける。

ホイール内側のBEFORE(左)、AFTER(右)。違いは一目瞭然。



文:高野智子 写真:千葉ガレージ、高野智子
Words:Tomoko TAKANO Photography:Chiba GARAGE, Tomoko TAKANO

株式会社千葉ガレージ
住所:〒168-0062 
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オクタン日本版編集部

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