イソの魂よ、永遠に|救世主の登場で、たった9台だけが再製作されたイソ A3/C

Photography: Henri Thibault



復活の救世主


イソが生産工場を閉じることになったとき、若いエンジニアでありテストドライバーを務めていたロベルト・ネリが、残されていたすべてのパーツや治具・工具を買い取ることに成功した。ネリは引き取ったイソの資産を活用することで、イソ各車をレストアし、世界にイソの魂を送り届けるキーマンとなった。

ロベルト・ネリ、元イソのエンジニア/テストドライバー。現在は元イソの従業員たちとともに、イソの整備をおこなう。

ロベルト・ネリの子息であり、ベルガモの近くでクルゾーネ・ワークショップに参加するフェデリコは、ピエロ・リヴォルタからの承認を得て、ロベルト・ネリA3/Cの限定版の製作を開始した。生産が中止されていたシャシーナンバーを継続したうえで、エンジンやその他のパーツにもイソによる認定の証を付けた。アルミボディ以外のすべての部品はオフィシャルなIR 300のものを用いて手作りされており、1963年にA3/Cが新登場した時の姿を忠実に再現するように造られている。フェデリコ・ネリはこのように説明する。



「シャシーのデザインはA3/Lの製作の際に用いられたもので、グリフォの試作品でした。しかしながら、グリフォとの主な相違点はそれより短いホイールベースです。A3/Lのエンジンはグリフォのものよりも時代的に以前のものです。のちに、ジオット・ビッザリーニは取り置いていたA3/Cの試作車をベースに、彼自身のためにビッザリーニ・ストラーダを開発しました。リヴォルタの側では試作車をグリフォに変身させている間のことでした。ミスター・リヴォルタはパワフルなGTカーを製作することを望み、快適かつ使いやすく、日常の足となる車とするという初心を忘れませんでした。彼はパワーを追い求めることはせず、むしろ信頼性や実用性を重視しました。たとえば、リヴォルタのルーフは試作車よりも高められ、帽子を被った4人が楽に座れるようになっています。その意味では、レンツォ・リヴォルタはフェラーリよりもマセラティの考えかたに近い人物だったといえるでしょう」

「ビッザリーニとA3/Cの間でのデザインの違いも同様でした。たとえば、エンジンフードでは、イソではエアフィルターに対応するためにわずかに高いものになっており、ドアラインも違ったものになっています。イソとビッザリーニではリア・フェンダーラインは違った考え方によって形状が異なっています。それはリアエンドも同様です。コンペティションカーのビッザリーニは片側につき1個のテールランプを備えていますが、A3/Cでは、片側につき2個ずつになっています。同様にインテリアにも相違があります。この2台の車は似通っているように見えて、違った面を持っているのです」

1963年ショーカーを再現した


今回、ご覧に入れるのが、1963年のトリノ・ショーカーのような総アルミボディのコーチワークを持った継続生産車の“第二世代だ”だ。ネリはオリジナルモデルとの機構面でのいくつかの違いについてこう語っている。



「再生産に当たって私たちは、アルミニウム製ボディを無塗装の地肌のままとしたので、顧客たちはこの車のフォルムを形作る要素をすべて見てとることができます。これは、私たちにとっては名刺のようなものです。この車はオリジナル版に備えられていたシャシー・ナンバーを引き継いでいて、“セクション2”と呼ばれるピエロ・リヴォルタの承認を受けたオリジナル・イソの後継車なのです。イソが残したエンジンや部品、そして元イソの人々の手によって組立てられています。私たちは現代の道路環境に即した安全性を考慮し、様々な改善をおこなっています。たとえば、最初のモデルではカンパニョーロが手掛けたブレーキ・キャリパーが使われていましたが、“セクション2”では後のビッザリーニのようにデュアル・サーキット・ブレーキシステムとして、ガーリング製のディスクを備えています」

「オリジナル版では排気システムに近すぎる燃料タンクをリア側に移動し、同時に容量を拡張しました。ラジエターの冷却ファンを2個に増やしています。潤滑系は、オリジナルでも、当時すでにイソへの搭載のために特注された12kgの油量を持つ“特大の”オイルパンであったため、手を加える必要はありませんでした」

「70年代最後のイソのモデルから、燃料ゲージのダッシュボードへの装着と、衝撃収納式ステアリングコラムを備えました。シボレー製エンジンはイソのシャシーナンバーとともに、オリジナルのイソの解体車から引き継がれ、リビルドして搭載されました。そして幸運なことに、エンジン番号とマッチするシャシーも手に入れることができたのでした」

コクピットにて


アルミニウム製の軽いドアを開けて、A3/Cのバケットシートについた貴方は、シートとの一体感に驚かされるはずだ。そして、路面に近く、脚を水平に延ばしたポジションから、ビッザリーニが設計したレーシングマシンがルーツであることを理解するはずだ。さらにシンプルな1960年代のインテリアはすぐにでも貴方を笑顔にしてくれることだろう。



私たちが取材したネリのA3/C “セクション2”は、デモカーとして組み立てられた車であるため、標準的な300bhpのシボレー・コルベットV8エンジンを搭載しているが、顧客用には365bhp型が製作された。300bhpであっても、クルゾーネ・ワークショップの周囲に広がるマウンテンロードを駆るためには不足があるはずはない。

現代では300bhpなど驚くほどのパワーではないが、ストレートでの加速時には、この車の生まれの証を垣間見るかのような鋭い加速フィールを味わうことができる。ブレーキは十分にパワフルで、タイトコーナーにも自信を持って飛び込むことができる。なによりも魅力的なことは、この車の高貴な生まれを証明するかのような、いかなる場合においてもよくバランスの取れたシャシーゆえの身のこなしだ。



1960年代のようにA3/Cは稀少な存在だ。私たちが取材した時点では、9台が組み立てられていた(編集部註:2015年当時)。

ネリは「私たちは2009年に最初の1台をデモカーとして完成しました。残りの8台の内訳は、2台がアメリカへ、1台がスイスの顧客へ、2台がハンガリーの友人の元へ、リヴォルタ家には1台を納め、南アフリカの顧客へ1台、スウェーデンのエンスージアストの元に1台があります。これ以上、もう造ることはありません」と語った。


2015年 イソ A3/C セクション2
エンジン:シボレー製、5359cc、V型8気筒、OHV、ホーリー製4バレル・キャブレター
最高出力:300bhp/6200rpm
トランスミッション:ボルグ・ワーナー製4MT、後輪駆動
ステアリング:バーマン製リサーキュレーテリングボール式
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、スタビライザー
サスペンション(後):ド・ディオン式、コイル、テレスコピックダンパー、
ブレーキ:四輪ディスク、リアはインボード
車重:1200kg
最高速度:191mph


編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:オクタン日本版編集部
Words: Gerald Guetat Photography: Henri Thibault

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:オクタン日本版編集部

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