「人に寄り添う車作り」の真髄|ベントレーベンテイガEWB海外試乗記

Bentley Motors

カナディアン・ロッキーの山麓に抱かれるバンクーバーの町に降り立って、胸いっぱいに澄んだ空気を吸い込む。カナダの西海岸に位置するこの町は、カナダ第三の都市であると同時に、林業が発達した緑豊かなエリアでもある。山々に残るコロンビア大氷河からジョージア海峡に注ぐフレーザー川、その河口に広がる豊かな土地には、有史以前から人類が住んでいたという。18世紀にはゴールドラッシュに沸いたが、収束後は輸出港として栄えた。加えて、天然資源と観光が、現在もこの町を支えている。豊かな水源を背景に林業が盛んで、地域で使用するエネルギーの75%が再生可能エネルギーで賄われているのも、注目すべき点だ。

試乗に繰り出す前に、ガスタウンと呼ばれる歴史街区を歩いてみると、英国を代表するラグジュアリー・カー・メーカーであるベントレーが旗艦SUVの最上級モデルとなる「ベンテイガEWB」のテストステージにこの場所を選んだ理由も理解できる。18-19世紀に栄えた頃の雰囲気を色濃く残す町並みにはためく英国旗を眺めていると、この国が今も、ブリティッシュ・コモンウェルスの一員であることを思い起こさせる。加えて、この地に根付いた大自然と都会が近接した豊かなライフスタイルは、近年のベントレーが掲げる“ウェルビーイング”というキーワードと親和性が高い。



港を望むホテルのエントランスで対面した「ベンテイガEWB」は、ベントレーの旗艦である「ミュルザンヌ」の後継とも目される最上級モデルである。「ベンテイガ」と比べて、180mmもホイールベースが延長されていると聞いていたため、デザインが間延びするのではないかと案じていたが、いい意味で期待は裏切られた。リアドアとクォーターパネルがつながる面のデザイン処理がうまく、間延びせず、エレガントなラインを構成している。フロントに目を向けると、水平基調のグリルと22インチの大径ホイールが相まって、強烈な存在感を放っており、老舗高級車ブランドの面目躍如たるところだ。



重厚なドアを開けて、たっぷりとしたシートに身体を預ける。フロントフェイシアからステアリング・ホイール、センターコンソールといった目で見て、手で触れる部分の素材の質感が高く、快適なリビングルームにいるかのようだ。上質な革に丁寧なステッチが施されており、しっとりとなじむ。2020年のフェイスリフト時に、ナビ画面が大きくなって視認性が向上した次世代インフォテインメントシステムが搭載されており、コネクティビティもアップデートされている。



シフトヘッドをDレンジに入れて、アクセルペダルを踏み込むと、巨体がグッと押し出される。最高出力550ps/最大トルク770Nmという大出力を発揮する4リッターV8ユニットは力強く2514kgもの重量級のボディを加速していく。大排気量エンジンらしい余裕あるトルクで、大柄なボディを加速する。3モード付きのエア・サスペンションにはアクティブ・ボディロール制御システムが搭載されており、優雅な乗り味に磨きをかけている。

ベントレーと聞けば、ベントレー・ボーイズに代表される英国のジェントルマン・ドライバーたちに愛されて、レースシーンを席巻したエピソードや、英国王室のロイヤルワラントを持つといったイメージが真っ先に思い浮かぶ。同時に、2020年には、創業から100周年を記念して発表された長期事業戦略「Beyond100」の中で、2030年までにカーボンニュートラルを達成するという意欲的な環境対応の目標を掲げている。

そもそも、「ベンテイガ」は2020年のフェイスリフトに伴って、主力モデルの心臓部には新たにV8ユニットが搭載されることになり、PHV版となる「ベンテイガPHV」も追加された。W12ユニットを積むハイパフォーマンス版の「ベンテイガ スピード」や、仕様の異なる「ベンテイガS」や「ベンテイガ アズール」と、幅広いラインナップが自慢である。そこに今回、「ベンテイガEWB」を加えるにあたって、EVやPHVといったエコカーではなく、最高出力550psを発揮する4リッターV8ユニットを選んだことは特筆すべきだ。今後、急速に電動化に舵を切ることを宣言しているベントレーにとって、エンジン車の集大成ともいえるモデルといっても過言ではない。

バンクーバーの市街地を走るとき、余裕あるトルクはそのままジェントルな走りにつながる。冬季オリンピックが開催されたウィスラーに向かって、舵を切る。流れの良い郊外の道に出ると、にわかに心臓部に隠された野性味が現れる。アクセルペダルをグッと踏み込むと、心臓部に搭載されたV8ユニットがにわかに唸りを上げて、分厚いトルクをデリバリーする。ワインディングロードに差し掛かると、さらにその力強い走りっぷりが頼もしく感じる。ドライビング・ダイナミクスになんの不服もないのは、あえて言うまでもないだろう。



4座または5座の仕様が設定されているが、テスト車は「4シート・スペシフィケーション」が選択されていた。後席にもセンターコンソールが装備されており、オプションで設定される「エアラインシート スペシフィケーション」を選べば、フットレストが加わって、助手席側のリアシートが大きくリクライニングする。湿度と温度を検知して、シート表面の温度を快適に制御する「オートクライメートシステム」やシートクッションを微調整して血流を促す「姿勢調整システム」といったユニークな快適機能も搭載する。

センターコンソール上にあるダイヤルで走行モードを選べば、様々な走行シーンに対応する。「コンフォート」「B」「スポーツ」の3種の走行モードに加えて、好みで設定できる「カスタム」が加わる。一般道では自動で設定されるBモードを選んでリラックスして走り、高速走行ではスポーツ・モードを選ぶことでしっかりと踏ん張るといった選択ができる。オフロード走行用に設定される「オールテレイン」には4種のオフロードモードが備割っており、悪路を自在に走ることも可能だ。



都会と自然との距離がほどよく近くに混在するエリアをドライブしたことで、この車の魅力がより深く理解できた。大排気量エンジンを積んだラグジュアリー・カーらしいドライバビリティの高さに加えて、ダイナミックな走りやオフロード走行にも対応する。当然のごとく、近代的なユーザー・インターフェイスや快適性能も備える。英国を代表するラグジュアリー・ブランドであると同時に、その時代ごとの”人に寄り添う車作り”がなされているからこそ、老舗として長い間、人々に支持されるのだろう。そこには、単純に言い表せない深いフィロソフィーが潜んでいる。それこそが、老舗が老舗たる所以であり、ベントレーというブランドの色あせない魅力なのだ。




文:川端由美 写真:ベントレーモーターズ
Words: Yumi KAWABATA Images: Bentley Motors

川端由美

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