マリナーが拓くベントレーの可能性|A GATEWAY TO NEW POSSIBILITIES

Bentley Motors

マリナーは英国王室御用達のステートリムジンなどのベントレーのインハウスのコーチビルダーとして、ベントレーの顧客の要求に高い次元で応える役割を担ってきた。加えて近年では、ビスポーク部門から一歩踏み込んだ新たな提案もおこなっている。



エコシステム。最近、スタートアップ企業界隈では、よく耳にする言葉だ。日本語に直訳すると、生態系だが、ビジネスシーンに置き換えると、自動車メーカーと部品サプライヤーといった直接的な関係に加えて、スマホとアプリといった間接的な関係も含まれる。簡単に言えば、金銭的に物品やサービスを売り買いする関係だけではなく、持ちつ持たれつのパートナー関係も、ビジネスシーンでは重要なエコシステムなのだ。

マリナーの歴史


1920年の創業から100余年の歴史を誇るベントレーにとって、ラグジュアリー・ブランドを維持するためのエコシステムの一員として、欠かせないパートナーがマリナーである。元々、馬具の製造メーカーを営んでいたマリナー・ファミリーに端を発し、馬車の架装を請け負うコーチビルダーとして成長した。奇遇にも、創業者であるH.J.マリナーが、ロールス・ロイスの創業者の一人であるチャールズ・ロールズと友人であったことから、ロールズ自身のために仕立てた「シルヴァー・ゴースト」のコーチビルドを手がけたのだ。1931年にロールス・ロイスとベントレーが統合されたことをきっかけに、マリナーは、ロールス・ロイスとベントレーという英国きってのラグジュアリー・ブランドの架装を手がける名門コーチビルダーへと成長していく。

20世紀初頭には、まだ自動車メーカーはシャシーのみを販売していたこともあって、マリナーはラグジュアリー・カーのボディを製造する架装メーカーとして、着実に実力をつけていく。ベントレーにとって、マリナーは顧客の望みに応えるボディを架装してくれる重要なパートナーであり、マリナーにとっても、ベントレーという高性能シャシーがあるからこそ、豪華な架装を与えることができるという相互に良い影響を与える関係性であった。

1923年にロンドン・モーターショーで発表された「 3リッター・スピードモデル」、1930年にはブルートレインと最速の乗り物を競った「6 1/2リッター・スピードシックス」と、マリナーは、ベントレーを代表するモデルの架装を続々と手掛けていくことになる。話が少々逸れるが、「6 1/2リッター・スピードシックス」については、ベントレーらしい逸話が残されている。当時、ベントレー・ボーイズのリーダー的存在だったウォルフ・バーナート大尉が、その時代に最も豪華で速い乗り物と称されたフランスのブルートレインを相手に、カンヌを出発してロンドンまでを何時間で走破できるか競ったのだ。その際に、4時間以上の大差で勝利を収めたのが、「6 1/2リッター・スピードシックス」だったのだ。

特別なモデルの製造を続々と手掛ける


戦後になると、マリナー独自のアルミ製ボディの製造技術やインテリアの質の高さが評価されて、ベントレーの少数生産部門の委託を受けるようになる。この頃から、ベントレーのインハウス・コーチビルダーの色合いが強まってくる。なかでも、プロトタイプから生産モデルまで一貫して製造する技術には目を見張るものがあり、2000年代までの長きにわたって、ベントレーのラインナップのなかでも、特別なモデルの製造をマリナーが手掛けてきた。「コーニッシュ」、「カマルグ」、「ファンタム6」、「コンチネンタルR」、「コンチネンタルT」、「アズール」など枚挙にいとまがない。

現在は、マリナー部門として、ベントレー本社に隣接するクルー工場の一角に本拠を構える。専門的に育成された専属のスタッフが製造に従事しており、なかには、マリナー・パークウッド時代から親子で勤務する人材もいるという。単にマリナーというブランドを掲げて製造するのではなく、同社の伝統に則ったビスポークにも対応する。実際、エリザベス女王のために作られた「ステートリムジン」もまた、マリナーが「アルナージ」をベースに特別な一台として、コーチビルドしたものだ。

長年、ベントレーの顧客の要求に高い次元で応える役割を担ってきたマリナーだが、近年、世界中で急速に高まる富裕層からの要求に応えて柔軟な対応ができるように、いい意味で変化もしている。嬉しいことに、我々、日本市場の要求にも敏感で、12台限定の日本市場専用のリミテッドエディション「コンチネンタル GTV8ムーンクラウドエディション」が発表されたのは、記憶に新しい。

「モノクローム」をテーマにした日本向けの限定車「コンチネンタルGTV8エクイノックス・エディション」(限定10台)。エクステリア、インテリアともにコントラストが効いたモノトーンのスタイルで統一された。

新しいデザイン言語を取り入れた野心的な試みも


さらに近年、マリナー部門は、ビスポークから一歩踏み込んだ新たな提案もするようになった。一例を挙げると、近年大きな話題になった「コンティニュエーション・シリーズ」は、歴史的な名車を現代に復刻するという驚きのプロジェクトだ。第一弾では、ベントレー・ボーイズの一員であるヘンリー’ティム’バーキン卿のために作られたレーシング・モデル「4 1/2ブロワー」が、現代のデジタルを駆使することで、往時のままの姿に再現される。マリナーの手になるレーシング・ベントレーを再現したモデルが手に入るなら、150万ポンドというプライスタグも納得だろう。

ブロワーのコンティニュエーション・シリーズに続き、1929年と1930年のル・マンを制したスピードシックスも、マリナーの手により12台が再生産されることが決まっている。

コロナ禍もようやく落ち着いたと思える2022年の夏、ペブルビーチで発表された「バトゥール」でも、マリナーの果たした役割は大きい。2020年に100周年を記念して、世に送り出された「バカラル」の後継とされており、18台という限られた台数のみが生産される予定だ。「バカラル」がドロップド・ヘッドクーペだったのに対して、「バトゥール」はフィクスド・ヘッドクーペである。なによりも、新しいデザイン言語を取り入れており、フロントグリルの形状がより垂直に立っており、ヘッドランプとリアランプのデザインも大幅に変更されている。そのシルエットは、レイピア(細剣)を連想させる鋭利なものであり、従来のベントレーとは一線を画する。

心臓部には、ベントレー史上最もパワフルな6リッターW12ツインターボ・ユニットが搭載されており、今後、急速に電動化に舵を切るベントレーにとって、ガソリン・ユニットを積むグランドツアラーのエピローグとなるような、圧倒的な存在感を放っている。これまでマリナーが手掛けてきたコーチビルドには、時代ごとの最先端テクノロジーが投入されてきたが、「バトゥール」でも最先端の素材や最新テクノロジーがふんだんに取り込まれている。ベントレー自身も、このモデルを評して、「ベントレーのスリリングな未来予想図として、今後の方向性を示す存在」としている。

バトゥールのインテリアにオプションで採用される純金のディテールは3Dプリンターによる加工技術によるもの。素材の金は、古いジュエリーから100%リサイクルするというサステナブルな方法で調達したものだ。

最新のデジタルを駆使したリバースエンジニアリングによるクラシック・レーシングカーの復刻、次世代を担うデザイン言語を形にした限定モデルの提案と、マリナーは、ベントレーというラグジュアリー・ブランドの地平線を広げるために、欠かせない存在に思える。次の100年に向かって大きく変化しようとしているベントレーの将来を見据えるためにも、マリナー部門の今後の展開に注目したい。


文:川端由美 写真:ベントレーモーターズ
Words:Yumi KAWABATA Images:Bentley Motors

オクタン日本版編集部

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