メルセデス・ベンツ300SLの後継車!? 幻のスーパーカー、イスデラインペラター108i

Broad Arrow Group

自動車の歴史には数え切れないほどの先見の明がある。デザイナー、エンジニア、実業家など、大胆で進取の気性に富んだビジョンを持ち、独自の道を切り開いて自動車の栄光という夢を実現しようとした人たちがいる。そんな一人が、ドイツ人起業家、エバーハルト・シュルツである。カーデザイナーとして就職するために、自宅ガレージで作った車「エラト-GTE」に乗ってポルシェやメルセデス・ベンツの面接に挑んだ、という逸話の持ち主だ。

8年間ポルシェにカーデザイナーとして在籍し、1978年にはライナー・ブッフマンが創業したbb社に移籍して、メルセデス・ベンツ CW311コンセプトカーのデザインを手掛けることになった。CW311はメルセデス・ベンツ300SLの後継車を目指してbb社が独断で開発を進め、1978年のフランクフルトモーターショーで披露された。W311は大好評を博し、メルセデス・ベンツはエンブレムを装着することを許したそうだ。今では考えられないような話に、自動車史のロマンを感じてしまう。

だがbb社からW311が市販されることはなく“それなら自分で販売する!”とシュルツは1982年、イスデラ社を創業した。イスデラは 「“I”ngenieurbüro für “S”tyling, “De”sign und “R”acing」というドイツ語の頭文字を取った社名で、日本語に訳すと“スタイリング、デザイン、レーシングのエンジニアリング会社”を意味する。

イスデラが世の送り出したW311は「インペラター108i」という車名が与えられた。スチール製のスペースフレームにグラスファイバー製のボディを組み込んだCW311とコンセプトはほとんど変わらないが、ウェッジシェイプのデザイン変更で最も目立ったのは、ポップアップ式のヘッドランプの廃止とテールランプがメルセデス・ベンツのSLシリーズ(R107)のものに変更されたことである。





リアに搭載したエンジンはメルセデス・ベンツ製V8で5リッター、5.6リッターのM117型に加えて、AMGの5.6リッターと6リッターエンジン、そして、メルセデス・ベンツのM117型の次世代型である、M119型へと進化を遂げた。そして、組み合わせられたトランスミッションは、ZF製5速MTだった。



1987年、フォルクスワーゲンのエーラ・レッシエン・テストコースで開催された『Road & Track誌』の比較テストにおいて、ランボルギーニカウンタック5000 QVやアロイス・ルーフの傑作、CTRイエローバードと互角の性能を披露し、テスターたちを驚かせた。0→60マイル加速はわずか5秒で、最高速度は176マイル(当時としては驚異的)という数値を叩き出した。1984年から1993年まで、わずか30台のみ生産され、日本には1~2台が輸入された、と言われている。

そんな幻のスーパーカーが来月、アメリカ・カリフォルニア州にて「ブロードアローズ・オークションズ」から出品される。これは毎年8月に開催される、クラシックカーの祭典「モントレー・ウィーク」に併催されるもの。インペラター108iは1992年にマイナーチェンジされ、ポップアップ式ヘッドライトを採用したほか、サイドのエアインテークが設けられた。



当該車両は1990年に生産されたもので、いわゆる前期型(全13台)のほぼ最終生産モデルだと言われている。生産時のオーダーシートには「1991年にイスデラ-ジャパンに納入予定」と記載されていたが、完成後に新車が納車されたのはイギリスだった。サンポート・ロンドン社が荷受人、「M・サックウェル」となっており、ニュージーランド出身のF1最年少出走記録を打ち立てた、マイク・サックウェルだと推測される。というのも、後に確認された販売広告には、サックウェルが所有者であることが明記されていたからだ。

そのほか、オーダーシートに記載されていたのは、1989年から1999年まで生産された5リッター のメルセデス・ベンツV8気筒(M119型)「コード960」、ボディカラーは「ポルシェ・インディッシュ・ロット」、つまりガードレッドであったこと。つまり、現在も同じ組み合わせである。日本納車予定だったものがキャンセルになったのか、無理やりイギリスにデリバリーしたのか、は定かではない。

インテリアに目を向けてみると走行距離わずか3,500kmというだけあって、経年劣化を感じさせない。レカロ製バケットシートを備えた、ブラックレザーのインテリアはメーター類やレバー、エアコンスイッチなど随所からポルシェ臭が漂うところがユニーク。シュルツのこだわり、であろうか?そして、シフトノブやシフトゲートはフェラーリを彷彿とさせる。





2007年まで、当該車両はイギリスのピーター・ハートネットのもとで保管され、現在はアメリカの有名コレクターの手元にあるそうだ。ブロードアローズ・オークションズによると予想落札価格は80万~100万ドルとのこと。


文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

古賀貴司(自動車王国)

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