Eタイプより居住性がいい!? イギリスの公道で2000GTをテストドライブ

Paul Harmer


ラック&ピニオン式のステアリングを操るのは、大いなる喜びだ。操舵力は軽く、ダイレクトで、ロック・トゥ・ロックは2.7回転しかない。サーボアシストを備えたブレーキも強力で安心感が強い。強固なバックボーン・シャシーとスパンを大きくとったウィッシュボーン・サスペンションの組み合わせは、重心が低く、ロールセンターの高いコーナリング姿勢を実現するとともに、サスペンションストロークは十分で、ピッチやロールもうまく抑え込まれている。乗り心地はしなやかだが、イギリスの痛めつけられたB級ロードでさえコントロール性は良好。



坂の頂点を乗り越えたところで、道の先が急に向きを変えていることに気付いたときにも、瞬間的に荷重が抜けたサスペンションは滑らかに接地性を取り戻し、的確なヨーを生み出してノーズの向きをピタリとあわせてくれた。狭い車線でも狙いどおりにトレースできる2000GTのハンドリングは、よりパワフルながら重く大きなスポーツカーの鼻を明かすことだろう。この点は、現代の標準と比較しても、極めて高い能力の持ち主だと評価できる。

どんな急坂もものともしないパワフルな走りとまではいわないけれど、2000GTはよくコントロールされたマナーで丘陵地帯を駆け抜けていくことができる。試乗車のタイヤは"か細い"ミシュランXZXだが、強大なグリップを生み出すというよりも軽快なステップを踏む感じで、1トンあたり134bhpのパワーに必要なトラクションを紡ぎ出す。

レヴカウンターは、まるでドライバーの心をせき立てるかのように、細かく目盛りが刻み込まれている。5段ギアボックスは素早いシフトが可能だが、繊細な車両ゆえ、そのフィードバックは最小限に留まる。ギア比は1速が低めで、2速との間に大きなギャップがあるうえにシンクロの効きは弱め。ただしシフトストロークは短く、ゲートが正確で剛性感も良好だ。

以下は『Road& Track』誌が 1967年 2月に新車の2000GTをテストした際に記された内容だが、ドライバーが限界的な走りを試していたことは明らかで、当時は同様の反応を示す車両が少なくなかったはずだ。

混雑した道を走っているとき、スロットルペダルへの反応が薄くなったり、反対に急に飛び出すような素振りを見せるのも、エンジン回転数が低いときにキャブレターが示す典型的な症状といえる。6つのバタフライバルブが開くと、エレクトロラックスの掃除機を思わせる吸気音が響き渡るが、キャブレターの同調はもう少し詰めたほうがよさそうだ(編集部註:R&T誌の試乗は米国トヨタの展示用車両であったため、続報でキャブレター調整不良であったことが明らかにされた)。

トヨタ2000GTは1967年から70年までにわずか351台が世に送り出され、うち62台の左ハンドル車がアメリカに輸出された。私たちが試乗したMF10-10129のシャシーナンバーが刻まれたこの車両は、ボディカラーがオリジナルのペガサスホワイトで、インテリアはブラック。そして驚くべきことに、ソーラーレッドにペイントされたもう1台とともに、1968年にモザンビークに出荷された記録が残っている。これは現地でトヨタ・ディーラーを営んでいたサ氏が手配したもので、後年ポルトガルで発見され、イギリスのエセックスに持ち込まれた。走行距離はたったの4万3000kmにすぎず、穏やかな気候のもとで過ごしてきたこともあり、錆はほぼなく、その多くはオリジナルのコンディションを保っていた。

シャシーからボディを降ろすようなレストアは不要で、コンディションを保つための作業が実施されたのみ。エンジンは完全に組み直され、サスペンションやブレーキは新しい部品に交換されたが、オリジナルのインテリアが当時の美しさを失っていないことは奇跡といっていい。こうして仕上がった2000GTは、2020年のロンドンコンコースで「ベスト・イン・ショー」を勝ち取ることとなった。

2000GTは、日本が生み出した史上最高のスポーツカーと呼んでいいのだろうか?1967年にそのプリプロダクション・モデルをテストした『Road&Track』誌は、「我々が試乗したなかで、もっともエキサイティングで喜びに満ちた1台」と評した。シャシーナンバー10129をドライブする幸運に恵まれた私も、彼らに同意しないわけにはいかない。また、スタイリングが魅惑的なだけでなく、高度なエンジニアリングを用いてていねいに作り込まれた車両であることも実感できる。白紙から練り上げられたコンセプトは明快で、“寄せ集め”とは大きく異なるスポーツカーをトヨタは作り上げたのだ。そのゴールはシンプルで、「俊敏なGTカー」というもの。日出ずる国からやってきた100万ドルの価値を持つ希少なスポーツカーは、究極のドライビングプレジャーを私たちにもたらしてくれたのである。


1967年トヨタ2000GT
エンジン:1988cc、DOHC、直列 6気筒、ミクニ・ソレックス・キャブレター×3基
最高出力:150ps/ 6600rpm 最大トルク:18.0kgm/ 5000rpm 
ステアリング:ラック&ピニオン トランスミッション:5MT、後輪駆動
サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:ディスク、サーボアシスト 車重:1120kg
最高速度:230km/h、0-60mph 加速:8.5秒


編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI
Words:Robert Coucher Photography:Paul Harmer
取材協力:オートフィチーナ(www.autofficina.co.uk

大谷達也

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