マセラティ最後のV8モデルをイタリアの雪上でドライブ

Maserati



ボディ剛性の高さが際立つ


今回のウインターテストな大きく分けて3つ。

宿泊地ボルオからアイストラックの用意されるリヴィーニョまで約40kmの往路と復路。そして特別に用意されたアイストラックでの走行である。事前情報に比べて気温は高め。標高約1200mのボルミオ出発時には3℃程度。そこから片側1車線のワインディングを上り続け標高2000m超のリヴィーニョではマイナス2℃くらいになっていた。限定販売となるマセラティギブリ334 ウルティマとレヴァンテ V8 ウルティマのほか、日本でもローンチされたばかりのグラントゥーリズモやクワトロポルテなど、多くのV8エンジン搭載車が用意され、ジャーナリストは分乗して運転を交代しながらリヴィーニョを目指す。僕はラッキーなことにマセラティ本社の若手スタッフとの移動になったため、往路はずっと運転をすることができた。前日のディナーでも隣に座ってくれた方で話は弾み、変わりゆく景色を眺めながら南北に長いイタリアの地形のユニークさとそれによる文化の違いなど、ガイドブックさながらの話を聞きながらの運転は楽しいものだ。ややもすると海外取材はただ飛行機に乗って試乗をして帰ってくる体験にとどまりがちであるが、彼はよくマセラティのことを知っており、また尋ねたことにはほぼ正確に何でも答えてくれるから余計に気持ちがよかった。



履いていたタイヤは、日本のスタッドレスタイヤよりグリップの低いスノータイヤのような感覚。ていねいにアクセルとブレーキを踏まないと結構簡単に滑ってしまうので、狭いコーナーが続くところではより細やかな制御を心掛けた。当然エンジンのパフォーマンスを出し切ることは出来るはずもないのだが、それでも軽くアクセルを踏み込んだ時の力強いトルク感と野太いエンジンサウンドには心癒されるものがある。

出発前にインストラクターから「途中に関所のようなポイントがあるので、そこではにっこりと笑え」との指示があったが、やがてその意味がわかった。リヴィーニョはスイスとの国境に位置する四方を山に囲まれている。町に通じる道路もたった3本しかなく、しかも一年の半分くらいは雪に閉ざされるらしく、かつては往来も非常に困難であったらしい。そんな地理的な特殊性から古くから免税の措置がとられてきた土地であり、今もイタリアのVAT(付加価値税)が免除されるいわゆる免税地域となっている。さっきまでガソリン価格の看板が1.97ユーロだったものが、いきなり1.25ユーロに変わり驚いたのが、まさにリヴィーニョに到着したというポイントであった。ちなみに1リッターの価格である。もちろん日本のガソリン価格よりもはるかに高い。

リヴィーニョに用意された特設アイストラックは決して広くはなかった。ストレートは200mもなく、適度にツイスティなコーナーの連続と大きなヘアピンの組み合わせであった。慣熟走行の後、すべての車種を乗り比べられるように順に乗り継いでいく。まずはトラクションコントロールをONのままで、周回を繰り返して慣れてくればOFFにしても良いという指示のもと走り始める。最初に乗ったのはギブリ。ギブリはこのコースにはマッチするボディサイズであり、アクセルを踏み込んだときに後輪から押し出される感覚がよくわかった。このインプレッションはドライよりも雪上のほうがより強くわかるのかもしれない。これだけの大パワーでも破綻することなくアクセルを踏んだ分だけハンドルを切った方向に進んでくれる。





その後、クワトロポルテ、レヴァンテ、そしてグラントゥーリズモと乗り継いだ。気温が比較的高かった(と言ってもマイナス3℃程度)ため、かなりあっさりとトラックはミラー状態になり、テスト最終にはトラクションコントロールOFFでは発進も難しい状態になってしまった。ドライビングテクニック的に完全に乗りこなしたとは到底言えない速度域での試乗ではあったが、まず全般的に感じたのがマセラティ車すべてに共通するボディ剛性の高さである。有り余るパワーを制御するとき、ブレーキもさることながら最も大事になるのがしっかりとしたボディであることは自明。雪道で車が思ったように曲がらないとき、これはかなり恐ろしい。そんなときに逆にアクセルを踏むことで態勢を整えることが出来るのは立派なボディがあってこそ、である。多少のギャップがあってもミシリとも言わないボディには安心感があり、これだからマセラティのオンロードでの走りが楽しいわけだ、と妙に納得をしてしまった。



ランチを済ませてリヴィーニョからボルミオへの帰り道。今回は3人でレヴァンテ V8 ウルティマに乗ることになった。運転を交代しつつ後席の快適性も確認してみた。もしこの車でウインタースポーツに行くとしたら、ファミリーや友人同士でとなるに違いない。心地よいサウンドと、そして質感の高いインテリアデザインに身を包まれてゆったりとした時間を過ごす。電動化の必然ももちろん理解したうえで、このV8エンジンがマセラティとして本当に最終モデルになってしまうことは残念ではある。でもその価値は、時代が変わったとしても高く残り続けることは間違いない。






文:堀江史朗 写真:マセラティ
Words: Shiro HORIE Photography: Maserati

オクタン日本版編集部

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