最高に「惜しい」マシン|唯一無二のブティック・スーパーカー、パンサー・ソロII【後編】

David Roscoe-Rutter

この記事は「超レア!唯一無二のブティック・スーパーカー、パンサー・ソロII【前編】」の続きです。



驚きの低走行車に試乗


久しぶりに乗せてもらったのは、熱烈なパンサー愛好家、ボブ・クレア氏が所有するマシンだった。ソロIIはカリスタやカストロール・カラーを纏ったリマ・レーサーと並んでいる。当該車両は25年も間、アメリカのコレクションに眠っていたもので、現在のオドメーターは1000マイルに届いていない、という驚きの低走行物件。2017年にクレア氏が購入してイギリスに凱旋帰国することになった個体は1992年に登録されたもので、パンサー社の幹部が購入したものだった。最近、レストアが施されたが、ボディやフレーム以外では流用パーツが多いためメンテナンス性は優れていたという。



エアロダイナミクスと冷却効率を極限まで追求したその姿は、まさにレーシングカーそのもの。公道を走れる市販車でありながら、サーキットでの性能を徹底的に追い求めた結果がこの独特なフォルムを生み出したのだ。見る角度によって印象が大きく変わるボディは、まるで現代アートの彫刻のようだ。そして、そのひとつひとつのラインや開口部が、高性能を追求する設計者たちの執念を物語っている。

インテリアに目を向けると、フォード・シエラとグラナダのパーツの寄せ集めに気づくかもしれない。エアコン吹き出し口からスイッチ類、ドアハンドルを兼ねたアームレストまで、おなじみの部品が並ぶ。しかし、組み合わせ方が秀逸だ。パンサー独自のパネルに巧みにレイアウトされ、ダッシュボードはドライバー中心の形状に仕立てられている。ドライバーを包み込むようなコクピットは、まるで戦闘機のパイロットになったかのような高揚感を与えてくれる。

メーターパネルはカスタムメイドで白い文字盤が特徴的ながら、イグニッションをオンにすると不思議な青い光を放つ。外観と同じく、ここにもパンサーならではの個性が光っている。量産車のパーツを用いながらも、高級スポーツカーの雰囲気を醸し出すその手腕は見事というほかない。そして、夜間走行時のブルーに輝くメーターは、まさに未来から来た車に乗り込んだかのような錯覚すら覚える。パンサーは、既存のパーツを用いながらも、独自の世界観を作り上げることに成功しているのだ。

白文字盤のメーターは幻想的な青い光で照らされる。

ドライバーの後ろに鎮座するフォード製エンジンは、たまに少し息切れし、ガタガタと音を立てなかなか騒がしい。流麗なエクステリアの車には、もっと魅惑的な多気筒エンジンサウンドが似合うだろう。期待できるのは、ギャレット製ターボチャージャーとウェストゲートの吸い込みと唸り音くらいだ。ボルグ・ワーナー製のタイトなシフトゲートを持つトランスミッションも、どうやら組み合わせる過程で本来の切れ味を失ったように感じる。

エンジン音は期待を裏切るものの、その反応の良さは特筆に値する。アクセルを踏み込むとターボの効果もあいまって、背中をシートに押し付けられるような加速感が味わえる。シフトチェンジの操作感は、洗練されているとは言い難い。しかし、そのメカニカルな感触は、むしろドライバーとマシンの一体感を高めてくれる。慣れてくれば、このクセのある操作感こそが、ソロIIならではの魅力のひとつに感じられる、かもしれない。結局のところ、ソロIIは完璧なマシンではない。しかし、欠点すら含めて個性的で魅力的なスポーツカーなのだ。サーキットを走り抜けるその姿を想像すると、思わずニヤついてしまうのは私だけだろう。

パンサーの開発を主導したのは、元GMのフィル・ギロー。彼はステアリングの感度にフェラーリをベンチマークとし、パワーアシストを採用しないという大胆な決断を下した。さらに、当時の流行に逆らい、異例の細さを持つ195/50サイズのタイヤを15インチアロイホイールに装着することを主張した。ギローの狙いは明確だった。軽量かつ正確なステアリングフィールを実現し、ドライバーの意志を直接路面に伝えること。そして、細めのタイヤを採用することで、グリップの限界を早めに感じ取れるようにしたのだ。このセッティングはサーキットよりも一般道での楽しさを重視したものと言える。



実際、ギローの狙い通り、細い車体が縦横無尽に走り抜ける様は、まるで大型バイクのようなアジリティを感じさせてくれた。ドライバーの腕次第で、ソロIIはどこまでも楽しませてくれる。そう、パンサーは単なる速さだけでなく、ドライビングの醍醐味を追求したマシンであるのだ。イギリスの田舎道ではコスワースエンジンを限界まで回す必要はない。その代わり、アクセルとステアリングの繊細な操作に集中できる。ターボチャージャーがもたらす中間域のパンチを堪能し、四輪駆動がもたらす安心感に浸る。そして何より、精密で繊細なステアリングの感触にスリルを覚える。

連続するコーナーで、すべてが一体となる。乗り味はロータス・エスプリに似ている。路面の起伏に従いつつも、生来の柔軟性で過酷な衝撃から乗員を守る。同時に、適度なロールで親しみやすく、的確な情報をもたらす(驚くべきことに、アンチロールバーは装着されていない。ギローの潔癖主義の証だ)。スロットルオフでノーズが鋭く内側に向き、パワーオンでコーナーを抜ける際には大きな自信を与えてくれる。多くの四輪駆動車は前後に常時トルク配分を行い、どちらが主導権を握っているのか分からなくなる。または、高性能すぎて楽しみが薄れてしまうことがある。しかし、ソロIIは違う。これこそ、イギリス公道における王者だ。

もし、もう少し大きな開発チームが用意できれば、もう少し時間があれば、もう少し資金があれば、謳い文句をもう少し控えめにしていれば(または、約束をもっと守っていれば)…と様々な“タラレバ”が思い浮ぶ。ソロIIには間違いなく欠点はあるもののステアリングホイールを少しでも握ったならば、これが自動車界に放たれた最高に「惜しい」マシンのひとつだと気づかされるからだ。大手自動車メーカーには真似できない大胆さと個性が、感じられる。量産車のパーツを巧みに組み合わせ、独自の哲学で磨き上げられたこのマシンはブティック・スーパーカーの真髄と言えるだろう。

まさに唯一無二の車である。


1992年 パンサー・ソロII
エンジン:1993cc DOHC 16バルブ直4、ウェーバー・マレリ電子燃料噴射
ギャレット・エアリサーチ・ターボチャージャー搭載
最高出力:204bhp/6000rpm、最大トルク:198lb ft/4500rpm
トランスミッション:5速MT、4WD、ビスカスカップリングLSD、前後トルク配分34:66
サスペンション:
前:マクファーソンストラット
後:不等長ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:ディスク式(フロントベンチレーテッド)、ABS
車重:1235kg
最高速:142mph
0-60mph加速:7.0秒


編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation: Takashi KOGA (carkingdom)
Words: Glen Waddington Photography: David Roscoe-Rutter

古賀貴司(自動車王国)

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