アルファロメオを象徴するレースカー・ティーポ33/TT12を伝説のドライバー3人が試乗テスト

Photography: Tim Scott



「スパのオールージュなんて、まるで公園を散歩するようなスピードだよ」とデレック・ベルが冗談を飛ばす。実際にテストを担当したメルツァリオは、「このコーナーでは、ほんのちょっとミスをしただけでも命を落としかねないと思ったものさ」と当時を振り返った。

ゆるいバンク角のコーナーは、なるほどアメリカのオーバルコースを思い起こさせるが、スピードは恐ろしく速い。「かつては270km/hで進入して280km/hで脱出したものだよ」とイタリア人ドライバーは楽しげに回想する。「本来のラインを10cmだって外すことは許されない。でも、いまは少なくともガードレールがあるから安心だね。あの頃は松が植えてあるだけだったんだ」

1975年のタイトル獲得に大きく貢献したマシンを危険にさらすことなんて、私には到底できない。そこでコーナー入り口で軽くブレーキペダルに触れると、安全なスピードでターンインしてから出口に向けて加速していくことにした。走り出して最初の数ラップは、レーシングラインを完全に把握できていないために不安で仕方なかったが、狙うべきラインが見えてくると、スロットルペダルをしっかりと踏み込みながら延々と続く中速コーナーをクリアできるようになった。

ある時点まではマシンが頑丈に感じられ、自信を持ってスロットルを踏んでいられたが、コーナリングでかかる負荷をひとつひとつの部品が受け持っていることに気づくと、急に不安を覚え始めた。そういえば、ステアリングにはかすかな振動が伝わってきている。これこそシャシーが捩れている証拠ではないのか?このマシンが現役だった頃のテストドライバーであるトエドロ・ゼコッリは、この問題点を繰り返し指摘していたという。「このコーナーを無事に走り抜けるたびにマシンに感謝したものさ」 デレック・ベルは冗談半分にそう語っていたが、その本当の意味がようやく掴めたような気がした。エキサイティングだが危険。重いのに俊敏。そしてパワフルだがデビュー直後は信頼性不足に泣いた。これ以上、イタリア車らしいレーシングカーがほかにあるだろうか?

陽が沈んでこの日の走行が幕を閉じたとき、私はTT12の虜になっていた。もっとも、私を魅了したのはシャシーでもなければハンドリングでもない。ましてや、車重とトルクバンドの影響を強く受けたエンジンパワーに感動したわけでもない。私の心を捉えて離さなかったもの、それはこのマシンが放つオーラだった。TT12は、たとえそれが停まっていたとしても見る者を釘付けにしてしまう。スターターボタンを押し込んだとき、うなじのあたりに鳥肌が立つのを私は感じた。エンジンの咆吼を響かせながらピットレーンを走り去るとき、いあわせた人々はポカンと口を開いていた。端的にいって、これほど感動的なサウンドを奏でるマシンは、モータースポーツ史上、ほかになかったのではなかろうか。

1974 アルファロメオ ティーポ33/TT12
エンジン:2995cc、フラット12、DOHC、ルーカス製機械式燃料噴射
最高出力:500bhp/11000rpm トランスミッション:5MT、後輪駆動
ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピック・ダンパー
ブレーキ:ディスク 車重:670kg 最高速度:206mph(約330km/h。概算値)

編集翻訳:大谷達也 Transcreation: Tatsuya OTANI Words: Sam Hancock

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