フェラーリ・デイトナを駆って古き良き時代のプレイボーイを気取ってみる

Photography: Paul Harmer



その野獣のような評判は、おそらく1968年の発表時に遡る。ピニンファリーナに籍を置いていたレオナルド・フィオラバンティによるそのデザインを傑作と認めない人はまずいないと思うが、ランボルギーニ・ミウラが世に出た後では、フロントエンジン・リアドライブのスーパーGTはやや時代遅れに見えたのだ。もっともエンツォ・フェラーリはそもそも保守的であり、フェラーリ各車は技術的に手堅いのがいわば伝統だった。最新技術はライバルが十分に試し、その有用性を証明してからでないと導入しないのが決まりだった。

デイトナの中身は、その前身モデルに当たる275GTB/4を踏襲、発展させたものだった。チューブラーフレームに載ったスチール製のボディは275GTBと同じくスカリエッティ製、ホイールベースも2400mmで同じだが、トレッドは0.5インチだけ広げられていた。サスペンションは上下のウィッシュボーンとコイルスプリング、テレスコピックダンパー、それに前後の太いスタビライザーで構成されていた。無論これもレースで十分に実績を積んだものだった。がっちりとしたウォーム&ナット式ステアリングも従来通り。ブレーキは大きなガーリング製ベンチレーテッドディスクと二系統式サーボアシストを採用していた。クラシックな5本スポークの軽合金ホイールに履くタイヤは215/70-15サイズのミシュランXASが標準だった。だが、マシューはより現代的なピレリP4000を選んでいる。

デイトナはフェラーリ最大の長所、つまりエンジンを活かすために生まれた車だ。コロンボ設計の定評あるV12は気筒当たり365ccの4.4ℓとなっており、その価値は既に多くのフロントエンジンモデルで証明されていた。DOHCヘッドと6基のダウンドラフト・ウェバー・キャブレター、そしてツイン・コイルを備えたエンジンは、それまでで最強のV12だった。5速トランスアクスルのおかげで、ピニンファリーナはマラネロの伝統を踏襲しながらも美しいフォルムを磨き上げることができた。長いボンネットと小さなキャビン、そして切り落とされたようなテールを持つデイトナは伸びやかなサイズの2シーターだが、空力性能にも優れており、352bhpと318lb-ftを生み出すエンジンによって175mph(約282km/h)の最高速を誇っていた。

90分の船旅の後、我々はフランスに上陸した。そこでマシューはようやく彼のデイトナのキーを渡してくれた。「気を付けてくれよ。君はこの20年間で四人目のドライバーだ」とほほ笑んだが、その笑顔には不安が覗いているように思えた。それも当然だろう。日常的に使われ、既に5万5000マイルを刻んでいるにもかかわらず、彼の車は無傷なのである。このデイトナは1973年の9月に新車としてイギリスに輸入された中の一台だが、翌1974年の終わり頃からは、ずっとマシュー一族のものだ。

「父は、新車より3割ほど安い7500ポンドほどで手に入れたそうです。この車は、実際に見て回った中では一番錆が少なかったらしい」とマシューは言う。マシューの父はデイトナを手に入れてから3年間で4万マイルほど距離を伸ばした。その後メタリック・ブルーからロッソ・キアロに再塗装され、インテリアもライトブルーから黒に変わった。マシューは彼の30歳の誕生日にこの車をもらい受け、それ以来、スターターモーターを新しくしたり、ステンレスエキゾーストやフェラーリ400用のパワーステアリングを取り付けたりと手を加えてきた。

さて、いよいよプレイボーイを気取ってデイトナを確かめる番だ。この車はドアのオープナーにさえこだわりがある。ドアの一番上に小さく控えめなクロームのキャッチが設けられているのだ。ドアは広く開いて驚くほど乗り込みやすい。特にランボルギーニ・ミウラやカウンタックと比べるとまったく無理な姿勢を取る必要はない。サポート性の高いレザーのバケットシートに座ると、視界は良好でありレッグルームも横方向も十分な空間がある。足も腕も伸ばした昔風のドライビングポジションを取るドライバーでも問題ないだろう。当時のフェラーリは、明らかにお客様が皆レーシングドライバーのようにスリムではないことに気づいていた。たとえプレイボーイであっても、である。ダッシュボードとステアリングホイールは工芸品のようだ。アルミの3本スポークの革巻きステアリングはちょうどいい位置にある。大きな速度計とタコメーターの間には補助的なメーターが4つ。さらにその外側には2つのメーターが設けられている。このメーター類は楕円形のナセルに収められ、非常に見やすい。ちょっとビジネスライクなデザインかもしれないが、高速で飛ばす場合には有難い。私たちはサーキットで待ち合わせをしている"意欲的な"プレイボーイであり、遅刻するわけにはいかないのだ。


プレイボーイの楽園。ここに座って352bhpを生み出す強力なV12エンジンを指揮する

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編集翻訳:高平 高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Keith Adams

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