ダットサン"フェアレディ"240Zは欧米からどう評価されたか? 創造神話をめぐる論考

1973年ダットサン240Z(Photography:Paul Harmer)



日本のクラシック
エンジンをかけると、うっとりとするような、キャブレターが空気を吸い込む唸りが聞こえてくる。スロットルを踏むと大きなノイズをたてるが、さほどスピードは上がらない。

ステアリングは正確で、視界は良好だ。片山は240Zが人とマシンの神秘的な調和を感じさせると語った。当時、そのような陶酔感を味わえたかどうかは定かではないが、魅力的な車であることは確かだ。随所にヴィンテージ感が溢れ、デザイナーの千葉による内装は、1960年代のテイストを思い起こさせる。240Zは日本初のモダンスポーツカーだった。そして世界的な観点から言えば、最後のオールドスタイル・スポーツカーの1台である。

私にとって、240Zは1970年代とその奇妙なビジュアル文化から切り離すことのできない車だ。つまり、単純な筋に沿って一面的なヒーローと悪人の非現実的でロマンティックな年代を描いた、ゴシップ的なテレビシリーズに影響されていた年代。ディスコやレゲエ、アボカド色のバスルームスイート、オレンジ色のプラスチックでできたイタリアの家具の出現、そして鮮やかなグリーンがイメージカラーだった"Habitat"が、ビーンバッグとチキンブリックでハイストリートのお洒落な人々を魅了した時代と同じ時期である。240Zはゴージャスで非現実劇な夢の世界を象徴している。

そのため、私たちはエッジカムパーク・エステートを240Zの撮影場所に選んだ。かつてウィンザーグレートパークの土地であった、ブラックネル近辺のクロウソーンにあるエッジカムは、スカンジナビアの家庭第一主義とカリフォルニアのランチ様式家屋に影響を受けたアセルスタン・ホエーリーという見識あるデベロッパーが手掛けたハイソサエティな郊外住宅地である。当時もっとも洗練されたデザインを誇る米国。240Zプロジェクトもこの頃の米国を意識して進められたのだろう。

エッジカムパークは1958年に開発が始まり、1970年に完成した。パンフレットのコピーは「ロンドン西部で最高の住宅地」だった。

フランソワ・トリュフォーが50年後の未来を描いた小説、レイ・ブラッドベリ原作の「華氏451度」を監督した際に、ジュリー・クリスティを撮ったのがこの住宅地の一軒の邸宅であった。この住宅地は「時が忘れた未来」と言われてきた。高速での信頼性に優れた 240Zでドライブを楽しみ、カリフォルニアスタイルのランチ様式住宅地の私道に停め、カンパリソーダを飲みながら鮮やかなオレンジ色のル・クルーゼ(レイモンド・ローウィのデザイン)で煮込まれたキャセロールを待つ至福の時間。想像するだけでわくわくするではないか。

生産台数50万台以上という240Zの成功は、大きな威信をダットサンにもたらした。2008年にニューヨークタイムズ氏が報じたように、この成功は「日本車に対する自動車業界の認識」を変えた。

片山は1977年にリタイアしたが、米国が240ZにおけるMr.Kの偉業を認めていた一方、日本では片山に敬意を払う者はそれほど多くなかった。しかしカーデザインの歴史における学術的な関心が高まるにつれ、片山は重要な人物として認められるようになり、1997年になると、日産はこの熱意に溢れるZカーの父、Mr.Kを起用したテレビコマーシャルを流した。

240Zは日本の名車の一台である。禅の格言を再度考慮し、その車の長所短所を楽しみ、パワフルでロマンティックなアイディアをイメージしてみてほしい。名車というのは想像力、そして体を、甘美で非現実劇な世界へと誘う。遠く離れたクロウソーンまでも。


1973年ダットサン240Z
エンジン:2393cc、直列6気筒、SOHC、日立SUキャブレター×2基
最高出力:150ps/5000rpm 最大トルク:21.0kgm/4800rpm
トランスミッション:5段MT、後輪駆動 ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前/後):マクファーソンストラット式、ロアウィッシュボーン、
コイルスプリング、テレスコピックダンパー、スタビライザー

ブレーキ(前):ディスク ブレーキ(後):ドラム 車重:1044kg
性能:最高速度122mph (約196km/h)、0-100km/h:8.7秒

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Stephen Bayley Photography:Paul Harmer

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