レストアの「職人技」を写真解説|廃車同然のアストンマーティンが美しくよみがえるまで

1959年アストンマーティンDB4(Photography:John Colley)



こうしたレストアプロジェクトに乗り出すには、まずドナーカーを手に入れなければならないが、その費用はわずか数年の間に大きくふくれ上がった。今や、藁くずをかぶった状態で納屋から出てきたものなら、何でも引っ張りだこの状態だ。2015年、アストンマーティン・ワークスで行われたボナムスのオークションで、30年以上使われていない裸のDB4シリーズ3に30万3900ポンドの高値が付いた。それも市場の過熱ぶりを思えば異例のことではない。ところで、その車には「実質的に欠品なし」との謳い文句が付いていたが、経験あるレストアラーなら警戒するフレーズだ。

アストン・エンジニアリングのワークショップ・マネージャーであるギャリー・ウィリアムズが、こう説明してくれた。「可能な限り欠品なしの車を購入することが必須条件です。なぜなら、小さくても重要なパーツの中には、今では非常に入手困難なものがあるからです。クォーターウィンドウの留め金やヒーターのコントロールレバー、シートレールなどです。これらはほんの一例にすぎません。DB4は生産期間中にどんどん進化し、多くのマイナーチェンジがありましたから」

「顧客が見つけたこのDB4はひどいコンディションでしたが、欠品なしであるという強力なアドバンテージを持っていました。防水シートを掛けたまま戸外で何年も放置されていたことなど、問題ではありません。フルレストアを行うつもりなら、すぐ公道を走れる車や、見た目がまずまずの車を買っても意味はないのです。どちらにしても完全に解体するんですからね。遺棄されていたものを買って5万ポンド節約するほうが得策ですよ。ただし、すべてのパーツが揃っていればの話です」

つい最近までは、パーツを再製作しても少数生産なので利益にはならなかった。例えば、何年も入手不可能になっている重要なコンポーネントに、フロントのロワー・ウィッシュボーンがある。中でも事故でよく曲がってしまうのがブレーキリアクターの直線部分だが、RSウィリアムズではその修理キットを提供している。このように、たいていのものはスペシャリストやアストンマーティンから入手できるようになった。アストンマーティン・ワークスの整備・レストア施設でヘリテージ・マネージャーを務めるナイジェル・ウッドワードによると、コンポーネントを補修して再利用する能力が以前より高まっているという。その技術は、オリジナル状態の維持にも役立っている。この点については後述する。

写真のDB4が特にひどい状態だったことは、アストン・エンジニアリングのウィリアムズも大いに認めるところだ。中でもシャシーとフロアパンは、通常より多くの作業を必要とした。「ドアシルに切り込んでみたところ、どこまで切ってもきりがない。普通、外側のシルをカットして、次のボックスセクションも半分までカットすることはあっても、内側の半分は無事なんです。ところがこの車の場合、シル全体とフロアパンの大部分を取り換えなければなりませんでした」

大手のレストア会社は、常に複数のプロジェクトを抱えている。そのため、経験に裏打ちされた実績ある作業工程に従って、仕事を効率よく進めることが必要だ。

アストン・エンジニアリングの作業工程はこうだ。まず車を分解し、各コンポーネントにラベルを付け、まとめてラックに保管する。シャシーはショットブラスト処理を行い、ボディシェルは剥離剤につけ込む。ボディとシャシーの修理を行っている間に、各パーツも順次補修に出すことができる。その後、組み立ててローリング・シェルにしてから、配線や内装に取りかかる。

"ファイナル・ビルド"と呼ばれる最終工程について、ウィリアムズはこう説明する。「いつでも最悪の仕事なんですよ。ドアのチリ合わせをしたり、350〜500マイルのロードテストで判明した細かい問題点を解決したり……。とはいえ、仕事の成否が決まるのもこの段階です。ここで失敗するレストアラーもいますよ。特にアストンのスペシャリストではない場合です。MGBをリビルドできればアストンマーティンも扱えるだろうと思われがちですが、アストンのレストアのほうがはるかに複雑なのです」

アストンマーティンに限らず、ハンドメイドの車をレストアするには高い技術が必要だ。しかし、テクノロジーの進化によって品質が安定し、よい状態を長持ちさせることも以前より容易になった。シャシーやスーパーレッジェーラのフレームワークをショットブラスト処理したあとの工程がよい例だ。ファクトリーでは、錆止めに"レッドオキサイド"で塗装していたが、アストン・エンジニアリングでは、地金の状態にセミマットブラックのパウダーコートを施している。耐チップ性が非常に高く、電着塗装によって隅々までコーティングすることが可能だ。

ウィリアムズはこう話す。「以前なら、古いアンダーシールは手で削ぎ落とし、ボディパネルもDIY用のペンキ落としを使っていたので大変な手間でしたが、今はボディを剥離剤に漬けるだけです。また、スチールのフレームワークとボディパネルの間には、オリジナルではグラファイトクロスを挟んでいましたが、私たちは合成ゴム素材を使っているので、古くなってもクロスのように劣化したり水分を含んだりしません」

「皆さんは忘れているのですが、こうした車は新車のときも完璧ではありませんでした。溶接の質はまずまずの場合が多く、ワイパー用モーターを取り付けるためにスーパーレッジェーラの鋼管を切り取るなどもしていました。また、ハンドメイドですから、左右で微妙に違う場合もありますが、現代の完璧な車に慣れたバイヤーの中には、それが理解できない人もいます。パネルフィットはかなりよかったようです。ただ、この時代のアストンは現在までに少なくとも1回は再塗装やボディワークの修理を受けているので、実際のところは分かりません」

いうまでもなく、DBシリーズのアルミニウムパネルをレストアするには高い技術と多くの時間が必要だ。このDB4の場合、事故後に施した修理のできが悪く、特にフロントのスカートに新しいパネルを継ぎ足す必要があった。ボディシェルを写真のように見事な状態に復元するまでには18カ月を要している。



編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mark Dixon Studio Photography:John Colley Workshop Photography:Paul Smith 取材協力:DB4オーナー、スペシャリスト各社、アストン・エンジニアリング(www.astonengineerin

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