もしも「フェラーリ250GTO」を買うことになったら|最高の名車を手にするための財力と労力を解説

GTOを買いたいなら……(Illustration:Mark Sommer)



それ以来、GTOの価格は上昇を続けている。2014年8月、かつてファブリツィオ・ヴィオラーティが所有していたシャシーナンバー3851は3811万5000ドル(2284万3633ポンド)で落札されている。

ジョン・コリンズは、この世界では広く知られ、愛され、そして信頼されている人物だ。決して笑顔を浮かべることのない無愛想な男だが、彼が最初に買った車である1969年製トライアンフGT6をもう一度買おうと思っているというエピソードを聞くと、その強面もどこか憎めなく思えてくる。

「もともとはカメラマンをしていて、結構稼いでいたんだが、1976年に最初のフェラーリを買ったとき、ディーラーにひどくだまされてね。『ヤツにあんなことができるなら、自分にだって自動車ディーラーくらいできる。それも一切人をだますことなく……』と思って、この商売を始めたんだ。でなければ、いまもカメラマンをしていたはずさ」

すでに8台を販売したコリンズにとって、9台目になると見込まれるGTOのシャシーナンバーは3387GTO。これは史上2台目に製造されたGTOとされる。このGTOは、完成した直後にモンツァでロレンツォ・バンディーニがテストを行った後、北米におけるフェラーリのディストリビューターであり、ニューヨークでディーラーを営んでいたルイジ・キネッティに売却された。これが1962年3月のことで、同じ3月に行われたセブリング12時間にフィル・ヒルとオリヴィエ・ジャンドビアンのドライブで参戦している。続いてボブ・グロスマンが購入し、彼はこのGTOで1962年のル・マン24時間に挑んだ。

グロスマンが1963年に手放した後もアメリカで開かれた数々のレースに出場。その後、何人かの手を経ているが、その過程でクラッシュしたり、リビルドされたりしたほか、エンジンも交換されたようだ。1987年には形成外科医のロン・フィンガー博士が裕福な弁護士のバーナード・カールに売却。コリンズによれば、今回の売り主はこの弁護士だという。1969年2月にカーク・ホワイトがたったの5400ドルで手に入れたこのGTO、今回の販売価格は従来の記録を塗り替える6000万ドルほどになるだろうとコリンズは予想する。

「芸術作品と同じさ」とコリンズ。「コレクターには外すことのできない1台だね。彼らにとっては、最後の晩餐で使われた聖杯と同じくらい価値があるものなんだ」

コリンズとはまったく別の立場でヴィンテージカーの取り引きに関わっているサイモン・キッドソンも、コリンズの意見に同意する。スイスでクラッシクカー売買のコンサルタント業を営む彼は、これまでに3台の250GTOを取り扱った経験を有する。

「いまや250GTOはオーナーがビリオネアであることを証明する名刺のようなものです。生産された台数がはっきりしているから、出自のあいまいなGTOは存在しない。ジェス・プーレットが手間のかかる調査をしておいてくれたおかげです」

GTOは操って楽しいヴィンテージカーであるという点でも、コリンズとキッドソンの見解は一致する。かつてジョン・サーティースが「GTOは普通の車だね」と指摘したのは、限界域でも奇妙な挙動を示さないことの裏返しでもあった。このためアマチュアドライバーでもかなりのペースでドライブできるという。GTOが高価で取り引きされる理由の一端は、ここにもある。

GTOの価格は間もなく1億ドルに手が届きそうな勢いだが、その顧客についてキッドソンはこう語る。「これだけの金額をポンと支払える人物はそういません。また、長い年月にわたってGTOを所有し、自らの手で走らせてきたジェントル・マン・ドライバーのなかには、かなりお年を召した方も少なくありません。そういった方々がGTOを手放す時期に差し掛かっているようです」

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Andrew English Illustration:Mark Sommer

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