伝説のドライバーが初めて手掛けたレーシングマシンの秘密

Photography: Paul Harmer 



いよいよ私がこのビーストに乗り込む時がきた。60年前にスコット-ブラウンが感じたものを確かめるのだ。JAPエンジンは、1953年当時よりおとなしいセッティングで、出力はわずか66bhpにすぎないが、それでも、マシンは必要最低限の400㎏と超軽量だから十分なパワーだ。ドアはないのでコクピットのサイドをまたいで乗り込む。シートともいえない"席"に腰を据え、イグニッションスイッチを入れてスターターボタンを押す。

冷えたエンジンが始動するまでには間があったが、点火するとドラムのような軽快な音が響き始めた。小刻みなチャカチャカという音は、むき出しのバルブ機構からだ。ロッカーアームが忙しく往復し、平行に並んだ2本のバルブスプリングが素早く伸縮している。このように心臓部を雨ざらしにするとは正気の沙汰ではない。オイルは飛び散るし、絶えず砂埃にさらされるではないか。

正面にある計器はオリジナルにはなかったものだが、シリンダーヘッドの温度を示す重要なものだ。右側には大きなレブカウンターが、左側には少し小さい速度計がある。伝わってくる振動に、Vツインを激しく回したら、車がバラバラになってしまうのではないかという不安が頭をよぎった。ここまで乗ってきたフィアットの直列2気筒は巧妙なエンジンマウントと60年分のNVH解析に支えられているが、1952年の車にそんなものは望めない。

さて、1速を探そう。一番良い方法は先に2速を選び、シンクロメッシュ機構でシャフトを抑えることだ。小さなシフトレバーの基部にはゲートが取り付けられており、1速/2速側と3速/4速側、リバースとを区別できるようになっている。また、通常とはポジションが反転していることも分かる。ギアボックスのドナーであるジョウェット・ジュピターがコラムシフトであるためだ。



クラッチは軽くて扱いやすく、スロットルの反応も鋭い。バタバタバタとピストンを鳴り響かせ、太いトルクを生かして発進。2速へはクリーンに入った。3速、4速と順調に加速。まずはエンジンを暖めよう。実力を見るのはそれからだ。オーナーのデビッドによれば、101mph(162㎞/h)は出るという。

路面は濡れていた。ブロックリー製のクロスプライ・レーシングタイヤを履いているが、その使い方がなかなかつかめない。ステアリングのレスポンスは神経質な印象で、一瞬でスピンしかねないと思い、コーナーには慎重に進入した。ホイールは同時代のターナー製マグネシウムで、むき出しのブレーキドラムに取り付けられている。ブレーキの利きは良好だ。ハンドブレーキの備えはない。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: John Simister 

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