水面を駆ける跳ね馬│フェラーリのバッヂを付けたスピードボート

Photography:Silvano Maggi



だがカストルディはこれにも満足せず、さらに大きく、そしてより速い速度を発揮する可能性を秘めた航空エンジンの搭載を決断し、ティモッシ・ハイドロプレーンを建造した。1954年、メカニカルトラブルによる事故に遭遇、からくも一命を取り留めると、引退を決意した。

アルノXIは、エンジニアであるナンド・デロルトへ売却され、デロルトは10年に渡り第一線で活躍を続けて、数々の華々しい勝利を挙げ続けた。使われなくなったアルノXIは、デロルトの製紙工場でひっそりと眠りについた。25年間にわたって惰眠を貪っていたアルノXIを引き取ったのは、実業家であり、フェラーリのコレクターであるルチアーノ・モンベッリであった。

モンベッリは1990年代に3年間におよぶレストアを行うと、自身のコレクションとして大切に保管してきた。2012年5月、アルノXIはモナコ・ヒストリック・グランプリの週末に開催されるモナコRMオークションに供された。当時の写真、そしてマラネロやイゼーオ湖で行われたベンチテストの際にフェラーリのエンジニアによって書かれた自筆の記録など、素晴らしい歴史が詰まったファイルと共に販売されたのだ

より高い安定性を求めたデロルトにより、エンジンカバーとフロントフェアリングが改造されているものの、アルノXIはカストルディが150mph以上を記録した数十年前の姿を保っている。そして驚くことに、カストルディのこの800㎏クラスにおける記録は現在でも破られていない。



「フェラーリの名を付けることを許された、そしてエンツォ・フェラーリの個人的な支援を受けて建造された唯一のボートとして、アルノXIは既にフェラーリの名車を何台も所有しているエンスージアストを魅了しました」とRMオークションのピーター・ウォールマンは語る。

フェラーリのバッジをつけた唯一のボートであること、そしてフェラーリのクラシックカーの価値が高騰していることから、RMは予想落札価格を最大150万ユーロに設定した(落札価格は86万8000ユーロだった)。

残念ながら、新しいオーナーがかつてのカストルディやデロルトのように、このアルノXIをレースで走らせることはできない。様々な大事故が相次いだ結果、スリーポイント・ハイドロプレーンのレースは既に禁止されているからだ。

しかし、その走る姿をひと目見たいと、世界中の名誉あるイベントから招待がくることは間違いないだろう。そしてもちろん、こんな究極のステッカーを車に貼ることもできる。「My other Ferrari’s a boat(私のもう一台のフェラーリは、ボートです)」と。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.)  Words: Kip Springer 

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