無法者「アウトロー」ポルシェ│速く、楽しく、格好よく

Photography:Matthew Howell



アウトロー・ポルシェに欠かせないもう一人の人物が"ザ・アウトロー" と呼ばれたゲリー・エモリーだ。ゲリーにとっては、クラシックポルシェのオーナーには2種類いるそうだ。磨いて楽しむ人と、運転して楽しむ人。エモリーは1950年代にカリフォルニアのサンフェルナンドバレーで、カスタムカービルダーのニール・エモリーの息子として生まれた。生まれながらにしてロサンゼルスのカスタムカーの文化に浸っていたのだ。

エモリーは1960年にカリフォルニアのニューポートビーチにあるチック・イバーソンというポルシェのディーラーでパーツボーイとして働き、ここで多くの356がカスタム加工されるのを目の当たりにした。ナルディやデリントンのステアリングへの交換、車高の変更、タイヤをオフセットさせるための改造、ナーフバー・バンパーへの交換、エクゾースト・システムをバーシュ製に交換するなどだ。これらはアウトローの発想の種となったのだろう。ゲリー・エモリーの頭の中で、ドイツとカリフォルニアが融合するカスタムの世界観が広がりつつあった。

ゲリーは1970年代をイバーソンで過ごし、ポルシェに特別な加工を行う手伝いをしていた。この頃は、コンクールが盛んで、オリジナルを上回るレストアが当たり前だった。1980年代に入り、ゲリーはイバーソンからパーツ事業を買い取って事業拡大に挑んだ。この10年間、エモリーは独自のスタイルでポルシェを磨き、多くの人たちから敬遠されつつ、新しいファン層も同時に開拓した。アウトロー・ポルシェはついにムーブメントとなり、真のアウトローのみに渡したバッジもエモリーが作成した。ちなみに、このバッジは今では高額で取引されるが、まず売りに出されることもないそうだ。



アウトロー・ポルシェの外観を分析してみよう。この素晴らしいオレンジ色のアウトローは、1964年356Cをベースに、ロングビーチのウィルホイト・オート・レストレーションが仕立てた。洒落ていて、ビンテージな雰囲気も残し、GTのような見た目はまるでポルシェが手を加えたかのようなテイストだ。ポルシェのレースカーは常に目を引く豪華さを備えるべきとの遺伝子を引き継いでいるといえよう。塗色は911のカラーチャートにあるブラッドオレンジで、1925ccのツインプラグエンジン、ローダウンしたサスペンション、ブラックにペイントした15×6インチサイズのパナスポート製アロイホイール、そしてスパルタンなインテリアと、典型的なアウトローだった。

いっぽうブラックの1964年356はアウトロースペックに期待するものをすべて備え、さらに1979年ポルシェ930ターボ用の3.3リッター6気筒ユニットを搭載している。パワーは3倍になり、迫力は10倍だ。だが、この"ホットロッド"は多くのアウトローの例に漏れず、コーナーは不得意で、同乗者はさぞかし怖かっただろう。

シルバー・ブレットは注目すべきアウトローだ。ベースになったのは1955年の356コンチネンタルで、原型が想像できるのはボディのBピラーまでだろう。ルーフは10cmほど低められ、ドアから後方のファストバックのデザインは特徴的なディテールだ。パワーユニットは911から抜き出した3リッターフラット6で、915型の5速ギアボックスをミドシップに搭載している。この"銀の弾丸"は大いに目立つ。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Nigel Grimshaw

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