「Waft」こそがベントレーをベントレーたらしめる!現行3モデルを一気試乗

Ryoma KASHIWAGI (SUPER FILM)

ベントレーをベントレーたらしめるものは何か?それは「Waft(ウォフト:イギリス英語読み)」の一言に尽きよう。Waftは“空気中を穏やかに移動する”、“煙や香りがふんわり漂う”などを意味する英単語で、日本語には直訳しにくいもののひとつでもある。

高級車の“レシピ”といえば概ね、次のようなものだろう。NVH(Noise, Vibration, Harshness)を徹底排除し、不必要なまでのパワーを与えながらも環境負荷を法律の範囲内に抑え、リサイクルに配慮した素材を用いながら、なるべく昔ながらの高級感を演出する。どこの自動車メーカーも高級車作りにおいて重視している要素だからこそ、差別化への苦労は相当なものだろう。

また昨今、高級車の要素へのプラスαとして「スポーティさ」も加味されがちだ。直線における加速や減速性能はもちろん、コーナリング中における乗員へのGのかかり方を抑えることが、結果的には車の運動性能を向上させることに繋がり、ひいては“スポーティさ”を謳えるようにもなっているのだと思う。

今回、9月初旬のベントレーのオールラインナップ試乗会で乗ってみたのは「ベンテイガEWBアズール」、「フライングスパー・スピード」、そして「コンチネンタルGTCマリナー」の3台だ。いずれも最高出力550ps@5750~6000rpm、最大トルク770Nm@2000~4500rpmの4リッターV8ツインターボを搭載しているモデルを選択した。いずれも8速DCTと組み合わされていた。

ベンテイガEWBアズール


全長5305mm、ホイールベース3175mm(ベース車両+80㎜)、車両重量2570kgという巨漢ぶりを発揮するベンテイガEWBだが、そのサイズ感を意識させられることはほとんどなかった。AWSのおかげで小回りは利くし、ベントレーダナミックライドのおかげで過度なボディロールもしない。ベンテイガEWBはその性質上、後席に座る乗員のためのモデルであろうが、まったくストレスを感じさせる要素がないため運転しても快適そのもの。



“スルスルーッ”と滑らかに、静かに加速し、0-100km/h加速をわずか4.6秒でこなしてしまう。物理的にノイズの発生源から乗員まで“距離”があるから、とも言えるがエンジン音、エグゾースト音、ロードノイズなどは最小限しか伝わってこない。サイドウィンドウに新たな遮音性に優れた合わせガラスを用いていることも功を奏しているのだろう。



試乗車の後席はビジネスクラスのようなリクライニング機能がついた、エアラインシートスペックと呼ばれるオプション(1,515,990円)を装備。この機能をコントロールするモニターには「飛行機の座席」と表示されるのは、ご愛嬌…。ただ、文筆業という職業柄かフォントの中国語っぽさやバラつきだけは気になった。後席の座面が高めなのは、乗員を外から美しく見せるためであろうか?

これは何もベンテイガに限った話ではないが、乗員の目に触れるものすべてに精緻な作り込みがなされている。乗り込む際にチラッと視界に入るシートレールにまでメッキ処理が施されている。フロアカーペットは装着前にフロアパネルの形状に合うように成型されている様子で、凛とした表情に仕上がる“貼り”が実に美しい。



フライングスパー・スピード


フライングスパー・スピードとてスルスルーッと滑らかに静かに加速する様は、ベンテイガEWBと一緒だ。全長5325mm、全幅1990mm、ホイールベース3195mm、車両重量2480kgというヘビー級のフルサイズセダンにもかかわらず、だ。ベンテイガEWBよりも90kg軽いこともあってか、0-100㎞/h加速は4.1秒と若干、速い。これは2ドアクーペのコンチネンタルGTCと同じで、フライングスパーの俊足セダンぶりが伺える。



フライングスパー・スピードは「スピード」と付くだけあって、よりスポーティな演出がなされている。フライングスパーではメッキ処理されるパーツがブラックアウトされるだけで、フライングスパーSに獰猛さがプラスされる。そして、エグゾーストが異なり、3500rpmあたりからエグゾーストの“フラップ”が開いて快音を轟かせる。ただ、窓を閉めているかぎり車内の静寂は保たれており、遠くで微かに“あれ?フラップ開いたかな?”と思わせる程度に過ぎない。

綿がぎっしり詰まった高級な座布団に座っているかのような乗り味は、路面の凹凸を感じさせない。それでいて柔らか過ぎないので、ボディと足回りの結合部付近から生じてもおかしくない無駄な動きが皆無。スポーティと表現するのが適切な否かは議論の余地があろうが、これほどの巨漢にもかかわらずドライバーとの一体感が味わえる。そして、車両とドライバーに一体感があるから、ボディの大きさを感じさせない。



フライングスパー・スピードもまた、アクティブAWD(全輪駆動)、AWS(全輪操舵)、ベントレーダイナミックライドシステムといったシャシーテクノロジーの恩恵を受けているが、技術的ディテールを気にするオーナーは少ないだろう。確実に言えるのはベンテイガEWBにも、フライングスパー・スピードにも“Waft”な走りに仕上がっている、ということ。もっと言えば数値上は「暴力的」な加速性能を有しているのに、車から伝わるってくるのはあくまでも上品な速さなのだ。



コンチネンタルGTCアズール


コンチネンタルGTCアズールは、試乗したほかの2台と比べると物理的に小さい。2ドアクーペとしては“大きめ”かもしれないが全長4880mm、全幅1965mm、ホイールベース2850mm、車両重量2370kgである。窮屈さはないが、ほかの2台を乗った後に試乗したからか、走り出してからすぐに凝縮感が漂っているように感じた。アクセルペダルの踏み込み量に忠実で、ステアリングレスポンスもわずかではあるが、よりダイレクトに感じた。もっとも、ほかの2台に比べてショートホイールベースな分、キビキビした動きに感じたのかもしれない。そして、コンチネンタルGTCアズールもまた、屋根を閉めているかぎりはWaftな雰囲気に満ち溢れている。まるで秋が深まるとどこからともなく金木犀の香りが漂ってくるように…、気づいたら超高速移動しているのだ。



布製幌を持つコンチネンタルGTCアズールだが、屋根を閉じていると静寂性はクローズドボディのほかの2台にまったく劣らない。4層構造、恐るべし、だ。ピレリ・ノイズキャンセレーションシステムも静寂に一役買っているのだろうし、ベントレー社が先代のコンチネンタルGT同等の静寂性、と謳っていることには疑念の余地がない。

屋根を開けて元気よくアクセルペダルを踏み込むと“こんなにボリューム大きかったの?”と思わせるほどのV8サウンドを轟かせる。フライングスパー・スピード同様、3500rpmからエグゾースト内のフラップが開くようで、音量があからさまに大きくなる。ジキルとハイドのような二面性が感じられて、ついつい楽しくなってしまう。ただ、あっという間に法定速度超過になってしまうのでご用心あれ。



元来、4気筒より6気筒…、6気筒より8気筒…、8気筒より12気筒…、と信じてやまなかった“大排気量・多気筒主義”な筆者ではあるが、最近の小排気量・高効率エンジンは本当に目を見張るパフォーマンスを披露してくれる。同じパワーユニット、同じトランスミッションで、3ボディのバリエーションを満喫したが、いずれも爆速ながらWaftな雰囲気たっぷりだった。そして、これぞ現代ベントレーの“味付け”であるのだと再認識した。

と同時に、大排気量・多気筒主義が時代遅れになってしまったことを痛感させられる。今後は瞬時に最大トルクを発揮でき、内燃式エンジンよりも圧倒的に静粛性に優れている電動モーターがベントレー車にも搭載されるのは間違いない。内燃式エンジンが時代遅れと呼ばれるようになることには一抹の寂しさを覚えながらも、どのようなサウンドで高揚感や高級感、はたまたWaftを演出してくるのか、楽しみでもある。


文:古賀貴司(自動車王国) 写真:柏木龍馬(SUPERFILM)
Words: Takashi KOGA (carkingdom) Photography: Ryoma KASHIWAGI (SUPER FILM)


試乗車:ベンテイガEWBアズール
車両本体価格:31,625,000円(消費税込み)
オプション装備:
ファーストエディション:2,000,000円
Bentleyエアラインシートスペック:1,515,990円
22インチ10本スポークホイール・ポリッシュ仕上げ:361,170円
セルフレベリングホイールバッジby Mulliner:83,060円
オプションペイント・ソリッド&メタリック:866,800円
フェイシアとドアウエストレールにピアノリネンby Mulliner:494,570円
3本スポークデュオトーン多孔ハイドステアリングヒーター:37,210円
カーペットオーバーマットにコントラストバインディング:46,980円
デジタルTVチューナー:186,040円

試乗車:フライングスパー・スピード
車両本体価格:29,909,000円(消費税込み)
オプション装備:
ツーリングスペック:1,229,100円
カラースペック:389,000円
ムードライティングスペック:368,690円
オプションペイント・ソリッド&メタリック:1,065,450円
22インチ10本ツインスポークホイール・ブラックペイント:515,570円
イルミネートFling Bラジエーターマスコット・ブラックグロス:617,030円
パノラミックガラスティルト&スラインドサンルーフ:483,830円
シングルフィニッシュ・ピアノリネンby Mulliner:384,190円
ダイヤモンドナーリング(ローレット加工):425,400円
Bentleyローティングディスプレイ:923,250円

試乗車:コンチネンタルGTCアズール
車両本体価格:39,468,000円(消費税込み)
オプション装備:
Continental ブラックラインスペック・マトリックスグリル:628,600円
セルフレベリングホイールバッジby Mulliner:85,550円
標準ブレーキとレッドキャリパー:242,600円
LEDウェルカムランプ:79,360円
フェイシアとウエストレールにクロムピンストライプ:236,120円
Bentleyローティングディスプレイ:983,250円
Bang&Olufsen for Bentley:982,190円
3本スポークシングルトーン多孔ハイドヒーター:38,140円

古賀貴司(自動車王国)

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