博物館エントランスではマトラがお出迎え!車好きの間で人気のフランス国家憲兵隊とは?

Tomonari SAKURAI

オリンピック期間中、パリでのマラソンや自転車競技などの先導車を務める青いバイクを見ただろうか。それはフランス国家憲兵隊だ。フランスには警察のほかに憲兵隊が存在する。憲兵隊というと、日本では軍の中の警察的なイメージがあるが、フランスではそうではない。1337年にフィリップ6世が「Maréchaussée」(マレショセ)を設立した。当初は軍の秩序を守るための組織だったが、17世紀には国の治安を維持する役割を担うようになった。同じ頃にフランス警察も誕生している。革命前に、現在の「Gendarmerie Nationale」(国家憲兵隊)として革命派を取り締まる役目を果たした。フランス革命で一時解散されたが、革命政府が再編し、ナポレオンの時代になると、さらに憲兵隊と警察の役割が明確化された。

軍と警察の両方の訓練を受けている憲兵隊は、少し前までは国防省管轄で、警察は内務省管轄だった。今では、どちらも内務省管轄となっている。大きく分けると、都市部が警察の管轄で、農村や郊外が憲兵隊のテリトリーとなる。都市と都市を結ぶ高速道路は憲兵隊の管轄であり、いわゆる高速隊は高速走行が可能な車両を導入している。時代に合わせて、1973年から1987年まではアルピーヌA110が、2006年から2011年まではスバルインプレッサWRXが採用されたこともある。現在はルノーメガーヌRSから、現代のアルピーヌA110が採用されている。こうした背景もあり、車好きの間で憲兵隊は人気がある。

毎年レトロモービルではブースを構えて車やバイクの展示を行っていることは、以前レトロモービルについてレポートしたときに少し触れたかもしれない。そのブースで憲兵隊の博物館があることを知ったのはいつだったか?いつか行ってみようと思いながら、レトロモービルの原稿を終えると、その記憶は彼方に飛んでいってしまっていた。オリンピック一色のパリで息苦しさを感じ、その近辺に面白いところはないかと考えたとき、この博物館を思い出したのだ。あれだけレトロモービルで宣伝しているのだから、きっと車両がずらりと並ぶコーナーがあるに違いない。そう思い立ちバイクを走らせた。パリの南南東に約40分、ムーランという街にある。そこに向かう途中、新型ルノー5、R5 E-techに出くわした。公道を走るのを初めて見た。

博物館の正面。憲兵隊の徽章「炎の手榴弾」勇気と決意と先頭による果敢さがモットー。窓にかかる垂れ幕には憲兵隊からオリンピックに出場している隊員たちを紹介しているのだ。

徽章が施された壮大なエントランス。入り口に入るとすぐにマトラが出迎えてくれる。これは期待大だ。

入り口に展示されているのはマトラJET(メイン写真)。憲兵隊高速部隊が初めて採用した高速道路専用の車両。R8ゴルディニの1100ccエンジンを搭載している。1967年から74年の間に5台が採用された。79年からはアルピーヌA110が採用された。

特別展示でオリンピック関連の展示が行われていることを伝えられ、館内へ。踊り場にはバイクがあり、これはいいぞと足早に進む。オリンピックに出場している憲兵隊所属の選手たちの紹介などがあった。常設展示は19世紀以前の憲兵隊の成り立ちや、当時の活動の記録を展示した2階と、それ以降から現在までの展示を行う3階がある。

特別展示のコーナーには、オリンピックの競技で先導車を務めるバイクということでBMW R1200 RTの姿が。

アルプスなどの山岳地方で活躍するスノーモービルはヤマハのもの。

1980年代から92年まで1216台が採用されていたBMW R80TIC。そして当時の装備。

さて、肝心の車は?別館か?一通り憲兵隊の歴史を学んだ後、受付に戻り車の展示について尋ねてみた。すると、ここから少し離れたところに車専門の博物館があるとのことだ。そこに行きたいと言うと、たまたまそこにいた車専門の博物館の責任者を紹介してくれた。車専門の博物館で憲兵隊の使用してきた車両の保管やレストアをしているのだという。ただし、一般公開はしていないとのこと。撮影をしたいと申し出ると、バカンス明けなら可能だという返事をもらい、彼が案内してくれることを約束してくれた。バカンスが明けてフランスの新年度が始まる9月に再会を約束してここを後にした。

今回は車が少なめで、憲兵隊の歴史的な役割について触れた。次回、憲兵隊が使用してきた車両の博物館を撮影して紹介したい。今回はその予習ということで。

2015年1月のシャルリー・エブド襲撃事件の時に印刷所に二人のテロリストがいるという通報を受け急行した憲兵隊は盗難車を発見。追跡を開始しようとしたところ、憲兵隊に発砲し、銃弾を4発受けた。その車両の扉が展示されている。車は2005年製フォード フォーカス ブレイク。

車両の展示はないけれど、ビデオで憲兵隊で使われてきた車の歴史とその車の維持について紹介している。

憲兵隊の車はミニチュアで見ることはできる。

憲兵隊のヘルメットたち。

警察と軍の訓練を受け、装備も軍と同様。機関銃も装備する。フランス製のAA Model 1952。

1928年に交通の安全を確保するために“ロード エンジェル”と名付けた交通部隊を発足。当時フランス車のドラー モデルR2を採用したが、そのスピードや舗装路のまだ少ない道での走破性がみとめられ憲兵隊の中で伝説的なモデルとなった。本来ここに展示されているのだが2023年9月からフルレストアされているため、今はこのパネルだけの展示となっている。

19世紀以前の展示ではその時代の英雄とそれにまつわる装備品が展示されている。

第一次世界大戦まで自転車部隊は各地で活躍した。銃と自転車の製造で有名なサンテチエンヌの自転車メーカーSVELTEは憲兵隊に多くを納入していた。

子供達の憧れの憲兵隊。ということで子供向けのおもちゃやゲームも。

現在はヤマハのXJP1300なども配備されているが昔から多いのはやはりBMW。これはR60/5。

土産コーナーも充実。ここでしか手に入らない憲兵隊カラーの間に入ったガレット。

憲兵隊カラーのミニカーも。

エスタフェットのプラモデル自体が他にないだろう。60~70年代に人気だったコメディ番組、サントロペの憲兵がモデルだ。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

櫻井朋成

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