航空機用エンジンを積み1000馬力で走るモンスターの正体とは

ジョン・ドッド製作1981年"ビースト"



ビースト誕生のわけ
ドッドがビーストの製作を思い立ったのは、彼の友人、故ポール・ジェームソンが、マーリン・エンジンを搭載した車を作り始めたことがきっかけだった。

オートマティック・トランスミッションのスペシャリストであったドッドは、サンタポッド・レースウェイのオーナーで建築家のロイとボブのフェルプス親子のサポートを受け、 1967年に車を完成させた。

「ロイとエンジニアだった彼の亡き父親、ボブが設計して2台とも白紙から造ったよ。火事の後、彼らは4輪でもう一度作ろうと言ったさ。ドラッグレース用ではなく、目指すのは常にロードカーをね」

メカニズムは比較的平凡だ。シンプルな構造の自家製シャシー、オースティン・ウェストミンスターから外したフロント・サスペンションとステアリング、強化したドライブシャフトを備え、リアは改造車愛好家御用達のジャガーの独立懸架だ。ウェストミンスター用といっても元はライレー・パスファインダー用であること、エンジン重量が約1トンであることなどを考えると、無理があると思うかもしれないが、非常に固いスプリングと各輪に2個ずつ備わるダンパーの効果で、想像するよりも悪くはない。フロント・ブレーキはジャガーのベンチレーテッドディスクだが、エンジンのパワーには負けていない。GM製のATは巨大なトルクに対応できるとドッドは保証する。

マーリンV12エンジンは飛行機のポジションに対して後ろ向きに取り付けられ、出力取り出し軸を後方にし、プロペラ駆動機構とブロワーは取り除かれている。それでもかなりの大きさで、スカニア製大型トラック用エンジンが小さく見える。キャブレターはホーリー製4バレル(流量:284立法メートル/h)を備えている。元の航空機用ではブロワーがエンジンの後方にあり、オイルパンの位置にあるアップドラフトキャブレターを通して吸い込むので、エアインテークの位置はハリケーンやスピットファイアではノーズの下だ。したがってビーストに搭載するにあたっては、インテークマニフォールドを新たに製作している。マグネトーはフロント(元のエンジンでは後方)にあり、Vバンクの内と外側に備わるツインプラグを点火する。シャクルトン製セルモーターがクランクシャフトをフロントから直接駆動するレイアウトだ。現在のステンレス製エグゾーストパイプは25年間に渡って使われているという。

ビーストは宙返りしないため、潤滑システムはドライサンプから自製のオイルパンと、クライスラーのオイルポンプを流用したウェットサンプに変更し、オイルポンプと同じシャフトでウォーターポンプを駆動している。ドッドはさらに大きなキャブレターに交換する計画だという。

燃費はこれ以上悪くなることはないそうで、現在、平均約1km/Lだ。スピットファイアがフルスロットルで飛行するときは6.8L/分だという。「普通に走ってマーリンが消費するのは、1時間あたり75英ガロン(約340L)、フルスロットルで走れば150英ガロン(約680L)に落ちる。1ガロンで約3マイルくらいは走るが、フルで走らせれば1マイルほどだ」

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編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.)  Words:Paul Hardiman Photography:Paul Harmer

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