航空機用エンジンを積み1000馬力で走るモンスターの正体とは

ジョン・ドッド製作1981年"ビースト"



ドライビングレッスン
実際のところビーストのドライビングはかなりシンプルだ。両方のマグネトーをオンにして、スターターボタンを押すと、全長180cmほどのクランクシャフトと12個のピストンが動きだし、サイドエグゾーストから轟音が鳴り響き、ギアトレーンが振動し、パワーが伝わるのがわかる。一次減速ギアボックスのレシオは3.5:1だ。スピットファイア・スペアーズのグラハム・アドラムは、「マーリンはかなり気難しくて負荷をかけないときちんと作動しない。プロペラを外したら、代わりに大きくて重いフライホイールを備えなければならない」という。おそらくある速度に達すると静かになるのだろう。スーパーチャージャーは取り外されているから、その咆哮を楽しむことはできないのだが。

フォード・グラナダのギアシフトレバーをDレンジに入れると、すぐに大きなアイドリングトルクがブレーキに反抗して走りたがる。スロットルペダルをほんの少し踏み込み、車が動き出すと、まるで馬車を操っているように操舵感がないことに気付く。果たしてコントロールできているのか定かではないが、しばらくすると安定してくる。シフトは順調にアップし、キックダウンの必要はない。ブレーキも効くようだ。パワーアシストを持たないステアリングはかなりローギアリングで、長大な全長を考慮し、小さなラウンドアバウトへ入るには余裕を持って準備する必要がある。走りだすと車内の温度は上昇していった。

「ジョン、回転はいくつだ」

「まだ200くらいだよ。レヴリミットは3000だ」

なんてことだ。私にとっては300がリミットでも充分な気がする。300rpmといっても減速ギアボックスを介しているのでフライホイールは1050rpmで回っていることを忘れてはいけない。1250rpmでも、おそらく140mph(225km/h)は出るという。今、取り付けられているのは4WD用のタイヤだから、それは勘弁してほしい。ドッドによれば、3基目の改良エンジン(現在はミーティア・ピストン)で約1000bhpを発揮するという。私はミーティアの600bhpくらいでいいと思うのだが。

その潜在的なパワーには恐ろしいものがあるが、実際に運転してみると、驚くほど操作しやすい。だが、クルージングを楽しみ、リラックスすることはできない。とりわけ燃えやすいFRP製ボディの下に、大量のガソリンや部品が犇めいていると思えば…。

現在ドッドはビーストとともにダンスフォールドの滑走路をもう一度走ろうと計画している。「138mphで走ったんだが、滑走路が短すぎる。もっと低いレシオのディファレンシャルでキャブレーションを改良すれば、 150mph(240km/h)くらいはいくだろう。タイヤが取れたり、トレッドが剥離したりとトラブルは多いし、エプソンからダンスフォールドまで行って戻ってくるだけで、70ガロンも飲み込むがね」

そういうと、分別ある81歳のジョン・ドッドは、彼の愛する作品、ビーストを走らせ、第二の故郷であるスペインを目指し、真っ赤に燃える夕日に向かって轟音とともに走り去っていった。


ジョン・ドッド。実際に会ってみると、このビーストから想像する破天荒なイメージからは程遠い。トランスミッションエンジニアとしての知識があったからこそ、恐れることなくこのプロジェクトを手掛けることができた

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編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.)  Words:Paul Hardiman Photography:Paul Harmer

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