言い尽くせない魅力がそこにある。|フェラーリ275GTBコンペティツィオーネ

疾走する275GTB/C。Cはコンペティツィオーネの意味。美しいサイドビューにスクーデリア・フィリピネッティの文字が映える広いキャビンは仕立ても素晴らしい。細いAピラーと広いグラスエリアのおかげで視界も良好だ



最後のレースワージーなロードカー
10月のよく晴れた日、カリフォルニア州モンテレー半島のとある場所にそのGTB/Cはやってきた。公道とサーキットをそれなりのペースで走らせることができるという願ってもないチャンスである。私はこれまでドライブしたことのある他の275とどう違うのか興味津々だった。 

私が最初に運転した275は正確にいえば275と呼べるものではなく、275の4カム・エンジンを積んだデイトナの2番目のプロトタイプであった。もっとパワフルになった量産型デイトナとくらべると110mph(約176km/h)以上で俊敏さに欠けるきらいはあったが、一般路ではかなりしなやかで、なかなかクールなフェラーリであった。次に体験したのはもっとも価値が高いとされるNARTスパイダーで(なにしろ2台しか作られなかったアルミボディのNARTスパイダーのうちの1台なのだから)、67年セブリングで17位完走という実績のほかに『ロード&トラック』の表紙を飾ったり、あのスティーヴ・マックイーン主演の映画『華麗なる賭け』の何シーンをも飾ったという栄誉ある車だ。その次が私のお気に入りの一台。その理由はアルミボディと4カム・エンジンの組み合わせが、250GTOに近い運転感覚(80%といったところか)を、8%ほどの価格で味わわせてくれるところにある。そのあと乗ったのが、ロングノーズのアルミボディに6連キャブ付きの2カム・エンジン搭載車だ。当時は駆動系に手を加えていたため、ドライブトレーンにバイブレーションが発生していたのが残念だったが、その後標準の4カムに戻され、整備もきっちりされた結果、いまでは非常に好ましい一台になっている。

275が素晴らしいのは、それを手にした最初の日から、加速、ブレーキ、コーナリングのどれをとっても優れた運動性能を味わわせてくれるところにある。それは別次元の軽さによるものだが、コンペティションカーとしての高い完成度あって初めて可能になったものである。私は09079独特の得もいわれぬ感覚を、じつは乗る前から感じていた。ラグナセカに向かう途中の公道で、後方の別の車から見たときだ。女優やスポーツウーマン、ファッションモデル、あるいはセレブから好きなひとりを選ぶとき、きっとヒップの格好よさは重要なポイントだろう。このフェラーリのお尻も同じだ。少しだけ外に張り出したリアフェンダーの引き締まったふくらみに、私は追いかける車の中からすっかり見惚れていたのだ。

09079はサーキットを走るのに完璧なコンディションとはいえない状態だったが、いかにセンセーショナルであるかといった強い印象を我々に与えるには充分だった。最初に注意を言い渡されたのはアクセルペダルの踏み込みが深いことだった。エンジンが届いたばかりで、まだ細かい調整がされていないからだが、右足を床まで踏むとすさまじい音のコンサートが目の前に繰り広げられたのには驚いた。ティーポ213コンペティツィオーネと称するV12エンジンは250GTOのそれと同じく、回転の上がり方が鋭いのが特徴だ。3000rpmを超えるあたりまでは普通の回り方だが、 5000rpmで強いひと突きがあり、そこから6000rpmを過ぎるあたりまでさらにもう一段、パワーが湧き出るという感じだ。ギアボックスは冷えているときは硬めだが、慎重に扱えば問題ない。そして暖まってくれば、それこそ操るのが楽しくなる。扱いに注意すれば正直に反応してくれる、そんな類のものだ。ギアレバーを次のゲートに入れるときなど、いかに精密な機械であるかが実感できる。フェラーリの5段ギアボックスを賛美するときに使われるあのフレーズ、『冷えたバターに温めたナイフを入れる』、まさにあの感触だ。


レース用にチューンされたエンジンは、ドライサンプの潤滑とコンロッド、ピストン、クランク、カムシャフトがコンペティション仕様となり、ウェバー3連キャブのインレットポートは後方から吸う形状になっている。


編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Winston Goodfellow Photography:Pawel Litwinkski

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