国有化されたアルファ・ロメオの窮地を救った「ジュリエッタ・ファミリー」

ジュリエッタ・ファミリー



1933年、経営が悪化したアルファロメオは国有化され、イタリア産業復興公社(IRI)の傘下に入った。IRIは、後にジュリエッタとなる小型車開発資金の一部を賄うため、利付国債を一般に向けて発行することを決めた。さらに国債保有者の中から無作為に選ばれた200名に、新しい小型車を賞品として提供するというボーナスを組み込んだ。

この小型モデルに対するアルファロメオの方向性は、なかなか定まらなかった。前輪駆動の800ccや、350ccの2気筒2ストロークエンジン車までもが考慮されたという。経営陣が下した決定は、前輪駆動車ではなく、1900をさらに小型にした後輪駆動の4ドアモデルの開発であった。このプロジェクトは、1900の開発者であり、その後、20年間にわたってアルファロメオの全車両の父となった、オラツィオ・サッタ・プリーガが率いた。

ジュリエッタはモノコックボディに、新しい4気筒ツインカム1.3リッターエンジンが搭載され、フロントサスペンションにはコイルスプリングとダブルウィッシュボーン、リアはコイルで吊ったリジッドアクスルで、Aアームによって位置決めされた。

エンジンはヘッド、ブロックとも総軽合金製で、さらにギアボックスケーシング、ディファレンシャルケースも軽合金製だ。

スプリント誕生の経緯
ベルリーナの開発は遅れぎみであった。ノイズ、振動といったモノコックボディ特有の難問を解決しようと、エンジニアたちは腐心していた。発表の遅れは死活問題に繋がり、アルファロメオとイタリア政府は窮地に立たされていた。1953年には、この事実をつきとめようとメディアが嗅ぎまわっていた。賢明な解決策が必要だった。フランチェスコ・クアローニとルドルフ・フシュカというエンジニアたちが解決策を思いついた。量販型のベルリーナ以前に先行モデルを発表すればいいとのアイディアだ。

ジュリエッタは、最初からシリーズとして計画されており、ベルリーナに続いてスプリント・クーペとスパイダー・コンバーチブルを追加する予定であった。ともに生産台数が少なかったことから、デザインと製造はカロッツェリアに委託された。クーペの開発は、1952年、アルファロメオのデザイナーであるジュゼッペ・スカルナーティによるコンセプトスケッチと縮尺1/10の石膏模型から始まった。スプリントの生産予定台数はわずか1000台で、ベルリーナのように流れ生産する必要がないため、このスプリントを1954年までに生産して200台の賞品に当てることにした。これなら国債購入者との約束を破ることにはならない。

ジュゼッペ・スカルナーティのデザインをもとにベルトーネとギアの2社がデザイン案を作成し、この中からベルトーネの案が採用され、ギアとの共同で取り組むことになった。ベルトーネのデザイナーであったフランコ・スカリオーネは、ギアのフェリーチェ・マリオ・ボアーノと共に、スカルナーティのラインをさらに上品にリファインした。

ボディの製作はベルトーネが、塗装と内装はギアが手掛け、その後アルファロメオのポルテッロ工場に送られて、メカニカルパーツが組み込まれた。ベルリーナはバイアスタイヤの予定だったが、スプリントには、最新のラジアルタイヤを採用した。

フシュカは、1954年のトリノ・ショーでスプリントを公開し、当選した国債保有者たちを安心させ、彼らには真新しいスプリントが届けられた。だが、ベルトーネだけは大量の注文を受けるのではとハラハラしていたに違いない。美しいスプリントは発表されると同時に公表を博し、数日のうちに700台もの注文が殺到した。結局、ヌッチオは生産体制を見直してこれに当たり、当初予定されていた1000台を大幅に上回る3万9654台ものスプリントのボディを製作、彼の会社は大きく成長した。


ジュリエッタが大きなロールでドライバーを驚かせることは、よく知られた特性だ。こうした時は、ツートーンのステアリングホイールがちょうどいい支えになる。左のSZコーダ・トロンカは生産台数が30台だ

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編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Richard Bremner Photography:Alfa Romeo

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